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2021年10月13日
社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らのグループは「子どもの8人に1人が医療サービスを必要とし、親もストレスを抱えやすい」についてPsychiatry and Clinical Neurosciencesに発表

子どもの8人に1人が医療サービスを必要とし、親もストレスを抱えやすい

発表者

笠井 清登(東京大学大学院医学系研究科 精神医学分野/医学部附属病院 精神神経科 教授、東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN) 主任研究者)
安藤 俊太郎(東京大学大学院医学系研究科 精神医学分野/医学部附属病院 精神神経科 准教授)
梶 奈美子(東京大学相談支援研究開発センター 助教)
西田 淳志(東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センター センター長)
五十嵐 隆(国立成育医療研究センター 理事長)
<論文名>
“Children with special health care needs and mothers’ anxiety/depression: findings from the Tokyo Teen Cohort study”
<発表雑誌>
Psychiatry and Clinical Neurosciences
DOI:10.1111/pcn.13301
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/pcn.13301
<著者>
Namiko Kaji, Shuntaro Ando, Atsushi Nishida, Syudo Yamasaki, Hitoshi Kuwabara, Akiko Kanehara, Yoshihiro Satomura, Seiichiro Jinde, Yukiko Kano, Mariko Hiraiwa-Hasegawa, Takashi Igarashi, Kiyoto Kasai**

発表のポイント

  • 東京ティーンコホート調査(注1)から、一般的な子どもが必要とする水準以上の保健・医療サービスを必要とする子ども(children with special health care needs (CSHCN)(注2))が日本において約12.5%存在し、そうした子どもをもつ親は不安・抑うつ(注3)を抱えやすいが、そのストレスはソーシャルサポートによって軽減される可能性を示唆しました。なお、CSHCNには医療的ケア児(注4)も含まれます。
  • 偏りの少ない一般住民を対象としたコホート研究からその存在率を示した研究や、親の精神保健問題との関連やソーシャルサポートの媒介の可能性を示した研究としては初めての成果です。
  • 医療的ケア児とその親の介護負担の問題がクローズアップされ、本年「医療的ケア児支援法」が成立したところです。長期にわたって医療を必要とする子どもたち自身や家族の介護負担に対する支援の拡充の必要性が望まれます。

発表概要

東京大学大学院医学系研究科の笠井清登教授、安藤俊太郎准教授、東京大学相談支援研究開発センターの梶奈美子助教、東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センターの西田淳志センター長、国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長らのグループは、約4000名の10歳児とその親を対象としたコホート調査から、一般的な子どもが必要とする水準以上の保健・医療サービスを必要とする子ども(children with special health care needs (CSHCN))が日本において約12.5%存在し、そうした子どもをもつ親は不安・抑うつを抱えやすく、ソーシャルサポートによって軽減される可能性を示唆しました。

CSHCNは米国で提唱された概念で、米国の17歳までの小児の18.8%に存在する(2016/2017年調査)とされていましたが、偏りの少ない一般住民を対象としたコホート研究からその存在率を示した研究や、親の精神保健問題との関連やソーシャルサポートの媒介可能性を示した研究としては初めての成果です。

昨今、日本においても、医療的ケア児とその親の介護負担の問題がクローズアップされ、本年「医療的ケア児支援法」が成立したところです。CSHCNは医療的ケア児より幅広い概念ですが、こうした子どもたち自身や家族の介護負担に対する心理社会的な支援の拡充の必要性が望まれます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金などの補助を得て行われました。

発表内容

①研究の背景

慢性疾患を抱える子どもの医療施策と、子どもたちをケアする親の負担への支援が問題となっています。医療の進歩や予防接種体制の改善に伴い、以前では小児期に死亡していた患者が長期生存できる時代となりました。米国では歴史的に、慢性的な疾患に罹患する子どもの特定に単に診断名を用いてきましたが、時代を経て小児慢性疾患の疾病構造が変わったことで、重症度や疾患による生活への影響度を加味しない、従来の診断名のみによる評価では、適切に福祉を必要とする子どもを把握することや支援施策を策定することが困難となりました。。そこでより広範囲で包括的な概念が必要とされるようになり、米国母子保健局(Maternal and Child Health Bureau(MCHB))は、1997年に「身体的、発達的、行動的、感情的に慢性的な問題を抱え、一般的な子どもが要する以上の健康および関連サービスを必要とする、もしくはそのリスクがある子ども」としてChildren with special health care needs (CSHCN)を定義しました。CSHCNの国勢調査も行われるようになり、CSHCNの割合は、米国の17歳までの小児の12.8%(2001年調査)、13.9%(2005/2006)、15.1%(2009/2010)、18.8%(2016/2017)に存在するとされ、増加の一途をたどっています。また、CSHCNの家族の調査も行われるようになり、治療費やその他経済的負担、治療にかかる時間、養育者の就労が制限されるなどの面で家族に負担を与えることが分かっています。しかし、CSHCNの養育者の精神的健康については米国のCSHCN国勢調査の項目に入っておらず、CSHCNの養育者がその他の養育者と比べてどの程度不安・抑うつなどのストレスを抱えているのかは不明で、CSHCNを養育することと抑うつの関係を媒介する要因も不明でした。

日本でも、難病あるいは小児慢性疾患への医療費支援は、主に児童福祉法による小児慢性特定疾患治療研究事業と自治体による子ども医療費補助制度として行われており、子どもの生命的予後の改善に大きく寄与してきました。しかし成人に移行するまでも、また移行してからも、長期間様々な障害や合併症を持ち、治療や支援を必要としているものの、縦割り型の支援策で小児慢性疾患児を支援することに困難が生じてきていました。また、経済的支援以外に小児慢性疾患児の養育者、家族をサポートする行政的施策もありませんでした。

②研究内容

そこで本研究は、小児慢性疾患の疾病構造が変化してきている今、小児慢性疾患児の実態が包括的に把握されていない日本において、初めて地域におけるCSHCNの頻度を把握するとともに、CSHCNの有無と養育者のストレス状態(不安・抑うつ症状)の関連、さらにその関連を媒介する要因を調べることを目的として行われました。

本研究は、思春期における精神機能の発達を包括的に研究することを目的とした、大規模コホート調査である東京ティーンコホート(TTC)の第一期調査を用いた横断研究です。

この調査で4,003世帯が回答し、子どもの平均年齢は9.7歳(女児の割合が49.4%)、養育者のうち母親による回答は93%でした(母親の平均年齢は42.0歳)。CSHCNについての質問に回答してもらったところ、502名(12.5%)の子どもがCSCHNに該当しました。CSHCNの有無およびCSHCNの質問該当個数が多いことは、養育者の不安・抑うつの重症度と統計学的に有意に関連していました(図1)。さらにCSHCNと養育者の不安・抑うつの症状の緩和に人的ソーシャルサポートが有効であることが統計学的に示されました。

③社会的意義・今後の展望

日本においても、2018年12月に成立した「成育基本法」の規程に基づき、「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」が2021年2月に閣議決定されたところです。また、CSHCNよりは狭い概念ですが、医療的ケア児に対する支援に向けて、「医療的ケア児およびその家族に対する支援に関する法律」が2021年6月に成立し、CSHCNと家族に対する支援の機運が高まっているところです。本研究は、日本においても一般の子どものなかにCSHCNが8人に一人という高い率で存在すること、CSHCNを養育することは、高いストレス状態と関連すること、さらにその関連が社会的支援により緩和されうることを示したことで、今後の政策に向けて重要なエビデンスを提供したと言えます。これから東京ティーンコホートは18歳時の調査に差し掛かるところですが、CSCHNと養育者のストレスが軽減され、ウェルビーイングの実現にどのような教育・社会環境が重要なのか、縦断的な研究が求められます。

図1. CSHCNの有無と養育者の不安・抑うつ症状との関連

図 1. CSHCNの有無と養育者の不安・抑うつ症状との関連

用語解説

(注1)東京ティーンコホート研究:
東京大学・総合研究大学院大学・東京都医学総合研究所の3つの機関が連携して行っている東京都居住の思春期被験者が参加する大規模な疫学研究です。東京都内の3つの自治体の住民基本台帳を用いて、平成14年9月1日から平成16年8月31日までの間に生まれた子がいる世帯を無作為に抽出し、連絡を取ることができた世帯のうち、縦断研究への協力が得られた3,171世帯が対象となりました。従って、東京ティーンコホート研究の被験者は、一般人口集団に由来しています。東京ティーンコホート研究では、心理学的状態、認知機能、社会学的背景、および身体に関する尺度といったさまざまな情報を、被験者とその親より取得しています。東京ティーンコホートのウェブサイト(http://ttcp.umin.jp/)で詳細をご覧いただけます。
なお、本研究の人数が3,171より多いのは、本研究では、10歳時点を対象とした初回調査(Tokyo Early Adolescent Survey (T-EAS))で行われたデータのうち、2012年10月30日から2014年5月31日までに行われた調査データを用いており、縦断研究への協力が得られた3,171世帯に絞られる前のデータであるためです。
(注2)Children with special health care needs (CSHCN):
米国母子保健局(Maternal and Child Health Bureau(MCHB))は、1997年に「CSHCNとは、身体的、発達的、行動的、感情的に慢性的な問題を抱え、一般的な子どもが要する以上の健康及び関連サービスを必要とする、もしくはそのリスクがある子どもの概念である」と定義しました。CSHCNの具体的な同定には、
  • 医療、メンタルヘルス、教育に関するサービスを、同年齢の他の子どもよりも多く必要としているか。
  • 医者から処方される(ビタミン剤以外の)薬を必要としているか。
  • 同年代のほとんどの子どもができることができない、あるいは部分的にしかできないか。
  • 理学療法、作業療法、言語療法などの特別な治療を必要としているか。
  • 感情、発達、行動の問題のために治療やカウンセリングを必要としているか。
という5つの質問を用います。そして、これらのひとつ以上に該当し、それが医学上、行動上、健康上の理由によるものであり、さらに12ヵ月以上続いている、あるいは続きそうな子どもであれば、CSHCNとなります。
(注3)不安・抑うつ(ストレス状態)
Kessler Psychological Distress Scale (K6)で測定しました。K6は、6つの質問からなる短い質問紙で、過去30日の主観的な精神的苦痛を評価します。国際的に幅広く使われている指標であり、世界保健機関(World Health Organization(WHO))の世界精神保健調査でも使用されています。「神経過敏だと感じましたか」「絶望的だと感じましたか」等、6つの質問に5件法で回答し(1.全くない、2.少しだけ、3.ときどき、4.たいてい、5.いつも)、それぞれに0点から4点まで点がつけられます。6つの合計点(0〜24点)が高いほど精神的苦痛が高いと評価されます。本研究では5点以上を不安・抑うつ症状陽性と判断し、5点から12点を軽症、13点以上を重症と評価しました。
(注4)医療的ケア児
医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や 経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。 全国の医療的ケア児(在宅)は約2.0万人と推計されています。
(注5)人的ソーシャルサポート
SSQ6 (Social Support Questionnaire-Short Form)日本語版を用いて評価しました。6項目から成り、精神的な支えになっている人について尋ねる質問紙です。ソーシャルサポートは多面的な側面を持つ概念ですが、SSQ6は主に人的ソーシャルサポートを評価するものです。それぞれの項目は、「助けを必要としている時に頼れる人」「気が動転した時に慰めてくれる人」等6つのシチュエーション毎に、1)支えになる人の数を尋ねる項目と 2)支えになる人に対する満足度を尋ねる項目とに分かれ、1)の人数の平均値と 2)の満足度の平均値を算出します。2)の満足度は、1.非常に不満である、2.かなり不満である、3.少し不満である、4.少し満足している、5.かなり満足している、6.非常に満足している、の6段階で評価します(1-6点)。

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