東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2021年11月1日
ゲノム医学研究センターの吉沢直子研究員、正井久雄所長らは「複製制御因子Rif1の消失は2細胞期初期胚での転写活性化に関与する」について米国科学雑誌 J. Biol. Chem. に発表しました。

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2細胞期胚における複製制御因子Rif1の機能喪失は初期胚の転写活性化に関与する

当研究所ゲノム医学研究センターの吉沢直子研究員、正井久雄所長らは「複製制御因子Rif1の消失は2細胞期初期胚での転写活性化に関与する」について米国科学雑誌J. Biol. Chem. に発表しました。研究成果は、2021年11月1日に米国科学雑誌 Journal of Biological Chemistry に掲載されました。

<論文名>
“Loss of full-length DNA replication regulator Rif1 in two-cell embryos is associated with zygotic transcriptional activation”
「複製制御因子Rif1の消失は2細胞期初期胚での転写活性化に関与する」
<発表雑誌>
「Journal of Biological Chemistry」
DOI:10.1016/j.jbc.2021.101367.
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002192582101173X

Rif1はDNA複製・修復を制御する因子です。マウスES細胞でRif1を失くすと受精卵の発生初期で特異的にみられる遺伝子集団の発現が強く誘導されますが、Rif1がどのようにこれらの転写を制御するかは不明でした。今回、私達はRif1を誘導的に欠損できるES細胞を作製しそのクロマチン構造を調べたところ、2細胞期胚遺伝子の一つであるZscan4の遺伝子クラスター内で、きわめて広範囲にわたりエンハンサー構造が形成されることを見出しました。このエンハンサーは、活性型エンハンサーのヒストン修飾H3K27アセチル化をもつ一方で、転写抑制型のヒストン修飾やDNAメチル化など正反対の性質を合わせ持つ奇異な特徴を示しました。また、Rif1の機能ドメイン解析では、N端を欠くRif1欠失変異体をES細胞で一過性に発現させると、断片が内在性Rif1と結合し、Rif1の局在核膜周縁への局在を妨げ機能阻害することで2細胞期胚遺伝子が脱抑制されることを明らかにしました。さらに超微量タンパク質解析により、マウス初期胚2細胞期ではRif1タンパク質はほとんどが全長型ではなく、断片化したポリペプチドとして存在しており、これらのメカニズムによりマウスの発生初期においてRif1の機能が失われていることが示唆されました。これまで、クロマチン構造を制御するタンパク質の初期胚での挙動はほとんどわかっていませんでしたが、本研究により、Rif1の一時的な機能喪失が個体発生における最初の遺伝子発現の活性化に関与するメカニズムの一端が明らかになりました。

初期胚2細胞期までRif1タンパク質(緑)はほとんどが断片化しており、遺伝子発現抑制機能を持たない。さらにC末端を含む断片(グレイ)は残存する全長型を阻害するため、発現の活性化を促進すると考えられる。桑実胚期までにはRif1全長型が回復する。

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