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2021年11月18日
細胞膜研究室の小松谷啓介研究員らの共同研究グループは「マラリア原虫のコレステロール取り込み経路を発見」について「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に発表しました。

マラリア原虫のコレステロール取り込み経路を発見
マラリア制圧に向けた新たなツールにつながる可能性も

長崎大学熱帯医学研究所の徳舛富由樹教授、同大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授、帝京大学医学部の磯尾直之講師(東京大学医科学研究所感染症分野客員研究員)、当研究所の小松谷啓介研究員らの共同研究グループは、世界三大感染症の一つであるマラリア原虫のサバイバル機能の一つとされる、コレステロール取り込み機能に関して興味深い研究成果を上げました。

現在、世界のマラリアの死者数は40万人を超え、その減少は鈍化し世界保健機関(WHO)の目指す制圧目標には程遠い状態です。今回の発見は、マラリアのelimination(排除)の新たなツールができる可能性が期待されるものです。

マラリア原虫は、生存や感染プロセスに必須なコレステロールを自身で生合成できないため、外部から原虫内に取り込む必要がありますが、その分子プロセスは不明のままでした。

研究チームはマウスマラリアモデルを用い、赤内型マラリア原虫が、細胞間のコミュニケーションを担うエクソソーム上に存在する血小板由来のリポタンパク質受容体を「ハイジャック」し、その受容体を使って血液内のリポタンパク質を取り込むことを発見しました。リポタンパク質は脂質とコレステロールの集合体で、マラリア原虫はこれを丸ごと取り込むことによってコレステロールを得ている可能性がわかりました。この研究結果は学術誌「Frontiers in Cell and Developmental Biology」(2021年11月11日号)に掲載されました。

マラリア原虫によるコレステロール取り込み機構のモデル図
マラリア原虫によるコレステロール取り込み機構のモデル図。
エクソソームが血小板由来のリポタンパク質受容体を輸送し、感染細胞を認識し受容体(CD36)を受け渡す。感染細胞は受け取った受容体を利用し、コレステロールを含むリポタンパク質(HDL)を取り込む。
PVM:寄生胞膜 CD36:リポタンパク質受容体 CD41:血小板マーカー

研究チームは、マラリア患者の臨床データで血液中のHigh Density Lipoprotein(HDL)の値が低下している症例が多いことに気付き、リポタンパク質の取り込み経路に研究ターゲットを絞りました。しかし、一般的なリポタンパク質受容体であるCD36やSR-B1は成熟赤血球にはそれほど発現しておらず、受容体の供給元は不明でした。研究チームはエクソソームを調べ、①血小板由来のリポタンパク質受容体が存在すること、②感染細胞を含む培養液に精製エクソソームを加えると、感染細胞のみに受容体の移動が起こることを示しました。この発見は、リポタンパク質受容体の受け渡しがマラリア原虫感染細胞特異的に起こっている現象であることを示しています。

マラリアの脂質代謝の研究は、ヒトにおける知見に比べて大幅に遅れており、多くの分子や経路が未同定のままです。よって、抗マラリア薬開発のターゲットとしても候補に挙がることは少なく、研究の遅れを招いていました。 特にコレステロール代謝に関しては多くが謎に包まれており、今回の発見はマラリア研究において画期的な報告になります。

<論文名>
“Malaria Parasites Hijack Host Receptors From Exosomes to Capture Lipoproteins”
<発表雑誌>
Frontiers in Cell and Developmental Biology
DOI:10.3389/fcell.2021.749153
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2021.749153/full
<著者>
Naoyuki Iso-o1,2*†, Keisuke Komatsuya3,4†, Fuyuki Tokumasu5,6*†, Noriko Isoo7, Tomohiro Ishigaki1, Hiroshi Yasui1, Hiroshi Yotsuyanagi1, Masumi Hara2 and Kiyoshi Kita3,8,9*
<所属>
1The Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan, 2Department of 4th Internal Medicine, Teikyo University Mizonokuchi Hospital, Kawasaki, Japan, 3Department of Biomedical Chemistry, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan, 4Laboratory of Biomembrane, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, Tokyo, Japan, 5Department of Lipidomics, The University of Tokyo, Tokyo, Japan, 6Department of Cellular Architecture Studies, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan, 7Department of Physiology, Teikyo University School of Medicine, Tokyo, Japan, 8School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University, Nagasaki, Japan, 9Department of Host-Defense Biochemistry, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan
†These authors have contributed equally.
*Correspondence

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