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2021年12月6日
統合失調症プロジェクトの飯野響歌、鳥海和也主任研究員らは「統合失調症と関連するAKR1A1遺伝子変異はエキソンスキップを生じ酵素活性の低下を引き起こす」について『Frontiers in Genetics』に発表しました。

English page

統合失調症と関連するAKR1A1遺伝子変異は
エキソンスキップを生じ酵素活性の低下を引き起こす

統合失調症プロジェクトの飯野響歌 東京医科歯科大学連携大学院生、鳥海和也 主任研究員、新井誠 プロジェクトリーダーらは、統合失調症患者で認められるaldo-keto reductase family 1 member A1 (AKR1A1)活性に影響を与える遺伝子変異の幾つかを同定し、統合失調症の病態との関連を明らかにしました。

本研究は都立松沢病院、名古屋大学、東京大学、東海大学、東北大学等との共同研究を行い、日本医療研究開発機構(AMED)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業、公益財団法人上原記念生命科学財団、公益財団法人住友財団、公益財団法人かなえ医薬振興財団、公益財団法人先進医薬研究振興財団等の研究助成により実施しました。この研究成果は、2021年12月6日に『Frontiers in Genetics』にオンライン掲載されました。

<論文名>
AKR1A1 Variant Associated With Schizophrenia Causes Exon Skipping, Leading to Loss of Enzymatic Activity”
(統合失調症と関連するAKR1A1遺伝子変異はエキソンスキップを生じ酵素活性の低下を引き起こす)
<発表雑誌>
Frontiers in Genetics
DOI:10.3389/fgene.2021.762999
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fgene.2021.762999/full

ポイント

  • AKR1A1遺伝子内に28箇所の変異を同定し、特にエキソン8の1塩基目の変異c.753 G>A及びc.264 delCが統合失調症と有意に関連することを見出しました。
  • c.753 G>Aによりエキソン8のスキッピングが起こることを確認しました。
  • c.753 G>Aによるエキソンスキップ及びc.264 delCの一塩基欠失が導くフレームシフトによりAKR酵素活性が低下することを明らかにしました。
  • c.753 G>A変異を有する人ではAKR1A1遺伝子発現及びAKR酵素活性が低下していることを明らかにしました。

研究の背景

統合失調症患者の末梢血では健常者と比べてグルクロン酸が高いということが知られています1。グルクロン酸は薬剤排出に関与するため、グルクロン酸の蓄積は統合失調症の治療抵抗性と関連することが推測されます2。グルクロン酸はアルドケトレダクターゼファミリー1メンバーA1 (AKR1A1) により代謝されることが知られており、AKR1A1活性の変化がグルクロン酸量に影響を与えることが考えられますが、統合失調症においてその活性変化や遺伝子変異の影響を評価した報告はありません3。そこで本研究では、統合失調症検体を用いて、AKR1A1遺伝子に着目した遺伝学的解析を行いました。

発表内容

統合失調症患者及び健常者においてシーケンス解析を行い4箇所の新規バリアントを含む28箇所のバリアントを確認しました。また、そのうち4つがコーディング領域に含まれることがわかりました (図1)。その中でも、c.753 G>Aは統合失調症患者で14例、健常者で5例確認され、この変異は統合失調症患者で有意に頻度が高いことがわかりました。また、c.264 delCは統合失調症患者の1例でのみ確認されました

図1: DNAシーケンス解析
図1: DNAシーケンス解析
新規バリアント (青矢印)、コーディング領域におけるバリアント (赤矢印)、その他のバリアント (黒矢印) を示した。コーディング領域において、 (A) エキソン5におけるシトシンの一塩基欠失 (V1)、 (B) エキソン8の一塩基目のグアニンからアデニンへの変異 (V3) が確認された。

次に、エキソンの1塩基目の変異によりそのエキソンが読み飛ばされることがあるということが知られているため4>、AKR1A1のエキソン8の一塩基目のc.753 G>Aによりエキソン8が読み飛ばされるかどうかを調べました。AKR1A1のエキソン8の一塩基目がGのエキソン7, 8, 9を含むミニジーン (WT) とAのエキソン7, 8, 9を含むミニジーン (MT) をそれぞれHEK293, SH-SY5Y, 1321N1にトランスフェクションして抽出したRNAのRT-PCRにより確認しました (図2A)。MTではエキソン8の読み飛ばしが見られましたがWTでは見られませんでした (図2B)。HEK293, SH-SY5YではWTと比べてMTでエキソンスキップが起こる頻度が有意に増加しました (図2C)。また、エキソン8の読み飛ばし及びc.264 delCのフレームシフトによりAKR酵素活性が変化するのかを調べるために、これらの変異により産生されるAKR1A1を発現させた大腸菌からリコンビナントタンパク質を精製し酵素活性の測定を行いました。これらの変異を持つAKR1A1では分子量が低下し、AKR酵素活性が著しく低下しました (図2D-E)。

図2: c.753 G>Aにより引き起こされるエキソンスキップ
図2: c.753 G>Aにより引き起こされるエキソンスキップ
(A) スプライシングアッセイの概要を示した。エキソン8の読み飛ばしはWTまたはc.753 G>A (MT) のミニジーンを発現するHEK293, SH-SY5Y, 1321N1から産出されたcDNAを用いて確認した。 (B) スプライシングアッセイの結果を示した。上のバンドはエキソン7, 8, 9の産物、下のバンドはエキソン7, 9の産物を示す。MTではエキソン7, 9の産物を生じることが示された。 (C) HEK293, SH-SY5YではWTと比べてMTで著しくエキソンスキップの頻度が増加した。 (D) 精製したGST及びGST-AKR1A1をSDS-PAGEにより分離した結果を示した。 (E) 精製したGST-AKR1A1においてAKR酵素活性を示した。c.753 G>A, c.264 delCで得られる産物は酵素活性が著しく低下した。

さらに、統合失調症患者においてc.753 G>Aが酵素活性に影響するのかを調べるために、6人の統合失調症患者 (SCZ#1~SCZ#6) 及び2人の健常者 (CON#1, CON#2) の赤血球における酵素活性を測定しました。c.753G>Aをヘテロ(GA)で持つ4人 (SCZ#1~SCZ#4) では、c.753G>A を持たない (GG) 4人 (SCZ#5, SCZ#6, CON#1, CON#2) と比べて酵素活性が低下する傾向が見られました (図3A)。また、そのうちc.753 GAを持つ3人 (SCZ#1, SCZ#2, SCZ#4) とGGを持つ2人 (SCZ#6, CON#2) の全血から抽出したRNAを用いてAKR1A1の遺伝子発現量を調べました。c.753 GAを持つ人ではmRNA発現量がGGを持つ人の50%程度となりました (図3B)。これらの結果から、AKR1A1におけるc.753 G>Aは酵素活性の低下に繋がることが考えられました。

図3: ヒトにおけるAKR酵素活性及びAKR1A1遺伝子発現
図3: ヒトにおけるAKR酵素活性及びAKR1A1遺伝子発現
6人の統合失調症患者 (c.753 G>Aバリアントを持つSCZ#1~4及び持たないSCZ#5, 6) 及び2人の健常者 (CON#1, 2) の赤血球におけるAKR酵素活性を示した。c.753 G>A バリアントを持つ患者で酵素活性が低下する傾向が見られた。(B) SCZ#1, 3, 4, 5, CON#2におけるAKR1A1のmRNA発現量を示した。c.753 G>Aバリアントを持つ患者では持たない人の50%程度のmRNA発現量を示した。

引用文献

  • Xuan J, Pan G, Qiu Y, Yang L, Su M, Liu Y, Chen J, Feng G, Fang Y, Jia W, Xing Q, He L. Metabolomic profiling to identify potential serum biomarkers for schizophrenia and risperidone action. J. Proteome Res. 2011; 10(12):5433-43.
  • Mazerska Z, Mróz A, Pawłowska M, Augustin E. The role of glucuronidation in drug resistance. Pharmacol Ther. 2016; 159:35-55.
  • Takahashi M, Miyata S, Fujii J, Inai Y, Ueyama S, Araki M, Soga T, Fujinawa R, Nishitani C, Ariki S, Shimizu T, Abe T, Ihara Y, Nishikimi M, Kozutsumi Y, Taniguchi N, Kuroki Y. In vivo role of aldehyde reductase. Biochim. Biophys. Acta. 2012; 1820(11):1787-96.
  • Fu Y, Masuda A, Ito M, Shinmi J, Ohno K. AG-dependent 3′-splice sites are predisposed to aberrant splicing due to a mutation at the first nucleotide of an exon. Nucleic Acids Res. 2011; 39(10):4396-404.

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