Topics

細胞の新たなストレス応答メカニズム~エンドソームストレスの発見~


蛋白質代謝研究室 主席研究員遠藤 彬則

私たちのからだを作る約 37 兆個の細胞は、それぞれ脳、心臓、筋肉など様々な組織として働き、日々生命活動を支えています。これらの細胞は、例えば紫外線や化学物質など外界からのストレス(職場の心的ストレスなども含まれます!)や細胞内で発生するダメージに常にさらされており、絶えず修復し、生き延び、働き続けようと頑張っています。しかし、そのストレスに上手く対応できなくなり、細胞の働きが悪くなると、様々な病気が発症します。さらに、最近では老化へ至る可能性も議論されています。そのため、細胞がストレスにどのように応答し、自身の健康を維持するのか、そして、それが生体においてどのような役割を果たすのかを明らかにすることは、疾患治療などを含めて QOL の改善に大きく役立つと期待されています。

私たちは、希少疾患クッシング病(指定難病 75)の原因遺伝子 USP8 に着目し、細胞の新たなストレス応答メカニズムを発見しました。細胞の中には、遺伝情報本体の染色体を保存する核やエネルギーを作る工場であるミトコンドリアなど多彩な構造体が存在します。USP8 は、エンドソームと呼ばれるタンパク質の仕分け工場の重要な制御因子です。今回、私たちは USP8 がエンドソームの働きを手助けすることで、常に細胞の健康を保つメカニズムを明らかにしました。USP8 の働きが悪いとエンドソームの機能が低下し、異常な炎症反応などが引き起こされます。この現象をエンドソームストレスと定義しました。興味深いことに、一つの細胞でエンドソームストレスが発生すると、その情報は周囲の細胞へと伝播します。つまり、エンドソームストレスは発生した組織から別の組織へ影響を与えることで、生体では広範囲にわたって非常に大きな効果を持つことが予想されます。

今後は、今回の発見をもとに生体におけるエンドソームストレスの生理機能、特にクッシング病におけるエンドソームストレスの異常、老化や免疫疾患などへの関与を検討することを計画しています。そして、これらの研究を基盤に関連疾患の治療法開発へ発展させることを期待しています。

図

【論文】

"USP8 prevents aberrant NF-kB and Nrf2 activation by counteracting ubiquitin signals from endosomes” (USP8 はエンドソーム上からユビキチンを取り除くことで NF-kB と Nrf2 の過剰な活性化を防ぐ)