体内時計プロジェクト 研究員(University of California, San Diego)廣木 進吾
体内時計プロジェクト吉種 光
生体の機能には「リズム」があることが知られています。例えばヒトでは、昼に代謝が上がり、体温が夕方にかけて徐々に上がっていき、明るい間に活動することができるようになります。逆に、暗い夜にはエネルギーを蓄えるように全身の機能が調節されます。このように、特定のタイミングに合わせて、体内のたくさんの要素を協調して調節するために、動物の細胞は約 24 時間周期で振動する「概日時計」と呼ばれるタイマーのような仕組みを持っています。これを構成する遺伝子は時計遺伝子と呼ばれ、ヒト、マウス、さらにはハエなどにも幅広く存在します。この時計遺伝子の働きが約 24 時間周期で変動することで、1 日の生体機能リズムがつくられています。
一方で、生体リズムというのは 24 時間周期だけではなく、心拍のように秒単位のリズムから季節応答のように長い周期のリズムも存在します。我々は、線虫C. elegansという小さな動物において、ある時計遺伝子が周期の異なる 2 つのリズムを生みだしていることを明らかにしました。線虫には、成虫で観察される約 24 時間周期の概日リズムに加えて、発生期には約 8 時間周期の脱皮リズムが知られています。我々は、遺伝子工学、網羅的転写データの取得、ビッグデータ解析を組み合わせることで、時計遺伝子の一つであるnhr-23/Ror 遺伝子がこれら周期の異なる 2 つのリズムに必須であることを示しました。また、その他の時計遺伝子の挙動から、nhr-23/Ror という時計の重要な「歯車」が、異なる部品と組み合わさることで異なる周期のリズムが生み出されることが示唆されました。
時計遺伝子を含め、線虫の遺伝子は多くがヒトを含む他の動物と共通しています。よって、本研究から、ヒトやその他の動物の体内において複数のリズムが柔軟に生み出されるメカニズムの解明につながることが期待されます。
Hiroki, S*. & Yoshitane, H*. Ror homolog nhr-23 is essential for both developmental clock and circadian clock in C. elegans. Commun. Biol. 7, 243 (2024).