認知症プロジェクト(当時)研究員 木村 妙子
副所長 長谷川 成人
当研究所 認知症プロジェクト(当時)の木村妙子研究員、長谷川成人副所長、東京都立大学の久永眞市名誉教授らの研究グループは、ヒトの頭部外傷を再現する CHIMERA 装置を用いて解析し、軽度の頭部外傷を繰り返し受けると脳の病気の一種である「タウ病理」が悪化することが分かりました。
本研究成果は、2026 年1月8日付けで国際学術誌『Acta Neuropathologica Communications』電子版に掲載されました。
スポーツ中の軽い衝撃や転倒など、日頃の生活で誰もが経験しうる「頭への軽い衝撃」が、アルツハイマー病など認知症の原因として知られる「タウタンパク質」の異常な蓄積を悪化させることを世界で初めて明らかにしました。
頭のケガを再現できる特殊な装置を使ってマウスに「頭を軽く打つ」ことを繰り返しました。すると、アルツハイマー病のように異常なタウタンパク質のあるマウスでは、「この軽い衝撃が異常なタウタンパク質をさらに増やし、脳全体に広げる」という驚きの結果が分かりました。特に、異常なタウタンパク質が脳の特定の場所にできた場合でも、頭を繰り返し打つことで、その異常が脳の別の場所へ広がるスピードが速くなることが証明されたのです。
この発見は、アルツハイマー病や、アメリカンフットボールのプロ選手などにみられる「慢性外傷性脳症(CTE)」といった脳の病気がなぜ悪化するのかという長年の疑問を解き明かす重要な手がかりとなります。
スポーツ選手や高齢者へ:スポーツを楽しむ方々や、転倒のリスクが高いご高齢の方々にとって、この研究は「頭部の保護」がいかに重要であるかを再認識させてくれます。ヘルメットやプロテクターの着用など、日頃からの対策が将来の脳の健康を守ることに繋がるかもしれません。
今回の発見は、脳の病気が進行するメカニズムを明らかにするだけでなく、新しい治療法を開発するための大きな一歩となることが期待されます。
私たちの研究は、誰もが直面しうる「頭への軽い衝撃」と脳の健康との意外な関係を示しています。日々の生活の中で、頭を大切にすることの重要性を改めて考えるきっかけになれば幸いです。