東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2021年4月21日
こどもの脳プロジェクトの西田裕哉 研修生と佐久間啓 副参事研究員らは「抗NMDA受容体脳炎の診断基準の小児に対する有用性」について「Neurology」に発表しました。

English page

抗NMDA受容体脳炎の診断基準の小児に対する有用性
〜治療開始に十分な根拠となるが、診断の確定には抗体の解析が必要〜

<論文名>
Evaluation of the Diagnostic Criteria for Anti-NMDA Receptor Encephalitis in Japanese Children
<発表雑誌>
Neurology
DOI:https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000011789
URL:https://n.neurology.org/content/96/16/e2070

抗NMDA受容体脳炎は精神症状などを呈する、こどもから大人まで罹患しうる脳炎です。患者さん自身の免疫システムが脳にあるNMDA受容体を標的とする自己抗体を産生することで発症する自己免疫性神経疾患という疾患群の一種です。自己免疫性神経疾患の多くは早期に免疫調整療法を導入することで後遺症を最小限に防いだり、より早い社会復帰ができる可能性が高まります。抗NMDA受容体脳炎の確定診断には自己抗体の解析が必要です。しかし国・地域により解析の実施が困難であったり、結果を得るのに時間がかかる場合があるため、抗体解析に依拠せず診断や治療の開始を判断する基準が求められていました。そして2016年、それまでの知見を元に6つの主症状群の組み合わせによる診断基準が提唱されるに至りました。しかし診断基準は主に成人症例に由来する知見を元に作成されており、成人症例と異なる特徴を有する小児の患者さんに対する有用性の検討はまだ不十分な状況でした。

この度、私たちは全国の小児神経専門医と連携してこどもの臨床情報を集積し、この診断基準が小児にも有用であるかを検証しました。私たちの報告の要点は次の3つです。(1)小児の抗NMDA受容体脳炎症例の8割以上がこの診断基準を満たすことから、同脳炎の取りこぼしが少ない(感度が高い)点で有用である、(2)基準を満たした小児のうち実際に自己抗体が検出されたのは約3割であり、基準を満たすだけでは診断確定はできない(陽性的中率は低い)、(3)一方で診断基準を満たしたが自己抗体が検出されなかった小児のほとんど*が抗NMDA受容体脳炎以外の自己免疫性神経疾患と診断されることから、免疫調整療法を開始する十分な根拠となる。以上のことから私たちは2016年の診断基準はこどもに対しても取りこぼしが少なく、免疫調整療法を開始すべき十分な根拠となる点でとても有用である一方、診断を確定するには自己抗体の解析が必要となると結論しました。

今回の報告から小児においても抗NMDA受容体脳炎の診断基準を根拠に早期・積極的な免疫調整療法を導入することが妥当であることが示され、小児症例の治療成績向上に寄与することが期待されます。研究にあたり日夜診療で多忙な中、臨床情報の収集に御協力いただきました全国の小児神経科医の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、本報告がこどもたちの将来を守るために役立つことを願っています。

*具体的には28人のうち24人が自己免疫性神経疾患、1人が非自己免疫性疾患、3人が診断未確定

図

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