東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2021年11月13日
感染制御プロジェクトの小原道法特別客員研究員と糸川昌成副所長らは「東京都で2020年から2021年の無症状者を対象とした、新型コロナウイルスに対するIgG抗体の調査」について英文誌「Journal of Epidemiology」に発表しました。

都立・公社14病院全てが初めて連携して都医学研と共同研究
~ 東京都で無症状の新型コロナウイルス抗体陽性者数がPCR検査陽性者の4倍 ~

当研究所感染制御プロジェクトの小原道法特別客員研究員と糸川昌成副所長らは、都立病院・(公財)東京都保健医療公社14病院の外来受診者の検査終了後の余剰検体を用いて、新型コロナウイルスの抗体を測定しました。測定は2020年9月1日から2021年3月31日にわたって実施され、延べ23,234人の検体を用いて抗体陽性率が解析されました。

2021年3月末までの年齢・性別・地域を補正した抗体陽性率は3.4%でした。今回解析したのは一般外来診療科の余剰検体のため、発熱外来や陽性者を除外した無症状者が対象です。したがって、無症状のまま過去に新型コロナウイルスの感染が示唆された都民は470,778人(95% CI: 361,100人-841,226人)いた計算になり、この人数はPCR検査の陽性者として発表されていた都民の3.9倍にあたります。本研究は、東京都特別研究の研究助成により実施しました。

この研究成果は、2021年11月13日(土曜日)3時(日本時間)に英文誌『Journal of Epidemiology』にオンライン掲載されました。

<論文名>
“Serologic survey of IgG against SARS-CoV-2 among hospital visitors without a history of SARS-CoV-2 infection in Tokyo, 2020-2021”
(東京都で2020年から2021年の無症状者を対象とした、新型コロナウイルスに対するIgG抗体の調査)
<発表雑誌>
Journal of Epidemiology
DOI:https://doi.org/10.2188/jea.JE20210324
URL:https://doi.org/10.2188/jea.JE20210324

発表のポイント

  • 都立病院・(公財)東京都保健医療公社病院の一般外来受診者の検査終了後の余剰検体を用いてiFlash3000(YHLO社)*1で血中のIgG抗体*2の量を測定しました。
  • 全期間の被験者全てにおける抗体陽性率は1.83% (95% 信頼区間 [CI]: 1.66%-2.01%)、2021年3月における抗体陽性率は2.70% (95% CI: 2.16%-3.34%)でした。
  • 年齢、性別、地域を補正した抗体陽性率は3.40%(470,778人)となり、公表されたPCR検査陽性者の3.9倍にのぼり、無症状のまま市中感染が広がっている可能性を示唆しました。
  • 都立病院・(公財)東京都保健医療公社14の病院すべてが参加して本研究所と連携した初めての大規模研究であり、単一研究施設で23,000人を超す抗体測定を実施された例は世界的にも稀で貴重な研究成果を得ることができました。

発表内容

新型コロナウイルス感染症ではPCR法や抗体測定が感染の判定に用いられていますが、潜伏期間の存在や偽陰性など、感染が見落とされる可能性があります。本研究では、新型コロナウイルス感染の東京都における疫学的性質を明らかにするために、都立病院・(公財)東京都保健医療公社14病院すべてと初めて連携することで(図1)、23,000名超の血清検体を用いてiFlash3000(YHLO社)で無症状者の血中のIgG抗体の量を測定しました。

図1.都立・公社病院の都内分布
図1.都立・公社病院の都内分布図

測定は2020年9月1日から2021年3月31日にわたって実施され、延べ23,234人の検体を用いて抗体陽性率が解析されました。

2021年3月末までの年齢・性別・地域を補正した抗体陽性は3.4%でした。今回解析したのは一般外来診療科の余剰検体のため、発熱外来やコロナ陽性者を除外した無症状者が対象です。したがって、無症状のまま過去に新型コロナの感染が示唆される都民は470,778人(3.4%)いた計算になり、この人数はPCR検査陽性者として発表されている都民の3.9倍にあたります(図2)。

図2.新型コロナの抗体陽性者とPCR陽性者数
図2.新型コロナの抗体陽性者とPCR陽性者数
2020年9月から2021年3月まで毎月のPCR陽性者数と、抗体陽性率から推計された感染者数。

日本ではクラスター感染を把握する感染者追跡に主眼が置かれていましたが、こうした追跡はパンデミックの初期には有効と考えられています。しかし、感染がかなり拡大した時期には、すべての感染者を追跡することが困難となります。今回の研究でPCR検査の新規陽性者数を4倍近く上回る無症状の感染者が広がっていたことが明らかとなったことから、当初行われていた感染追跡の有効性低下が示唆されました。

<用語解説>

*1) iFlash3000(YHLO社):
中国で開発された大量に抗体を測定する自動計測装置。
*2) IgG抗体:
感染してきたウイルスと反応する免疫物質。ウイルスと特異的に反応し撃退する中和抗体を含む。

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