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ヒトiPS細胞から造血前駆細胞を効率良く作り出すための鍵となる因子を発見


幹細胞プロジェクト 主席研究員北島 健二

京都大学の山中先生らによって開発された iPS細胞は、特殊な培養条件で培養すると様々な細胞に変化(分化)させることができます。幹細胞プロジェクトでは、ヒトiPS細胞から免疫細胞を作り出し、この免疫細胞を用いた新しいがん免疫療法の開発研究を行っています。ヒトiPS細胞は、サイトカインと呼ばれるタンパクを含む培養液で 3次元培養することにより、血管内皮細胞や間葉系細胞から成るオルガノイド様の細胞凝集塊に発達し、この内部には免疫細胞や赤血球、血小板などの元となる造血幹前駆細胞が認められます。この造血幹前駆細胞の特徴を詳しく調べたところ、ヒト臍帯血の造血幹前駆細胞では発現しているFLT3という細胞膜タンパクが発現していないことが分かりました。このことから、iPS細胞から得られた造血幹前駆細胞は、本来の造血幹前駆細胞と似た特徴を数多く有しているものの、一部は異なることが分かりました。

FLT3は、FLT3Lというサイトカインの受容体であり、造血幹前駆細胞の細胞増殖や生存をサポートする役割を担っています。そこで、FLT3遺伝子を発現させたヒトiPS細胞を作成し、FLT3Lを加えた 3次元培養により造血幹前駆細胞に分化させました。その結果、マクロファージや好中球などに分化することができるミエロイド系造血前駆細胞が大幅に増加することが見出され、FLT3の利用により、ヒトiPS細胞から造血前駆細胞を効率よく作り出せることが分かりました。一方でヒト iPS由来の造血幹前駆細胞が、なぜ本来の造血幹前駆細胞とは異なり FLT3を発現していないのかは不思議です。私たちは、炎症性サイトカインの一種であり、マウスでは造血幹前駆細胞の発生に関与しているインターフェロン-γが、ヒトiPS由来の造血幹前駆細胞における FLT3の発現を活性化することを発見しました。FLT3は、Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、形質細胞様樹状細胞などの免疫細胞の細胞増殖や生存にも関与しています。したがって、今回得られた知見を応用することにより、ヒトiPS細胞からこれらの免疫細胞も効率よく作り出せることが期待でき、新しいがん免疫療法の開発に大きく役立つものと思われます。

表1 患者群で長鎖アシルカルニチン濃度が低値を示す

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