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毛髪の亜鉛濃度は
思春期児童における精神病の発症リスクと関連する


統合失調症プロジェクト 非常勤研究員田畑 光一
統合失調症プロジェクトリーダー新井 誠

統合失調症患者さんでは血液や毛髪中の亜鉛濃度が健常者に比べて低いことが報告されています。しかし、服薬の影響で体内の亜鉛濃度が変化するという報告もあり、亜鉛濃度が精神病の発症前から低いかどうか、また発症そのものと関わっているかどうか、わかっていませんでした。本研究は東京ティーンコホートと連携し、252名の未服薬の思春期児童を対象に研究を行いました。14歳時に 0.1g ほどの毛髪検体を提供していただき、亜鉛濃度を測定しました。同時に児童の親にアンケート調査に記入していただき、児童が精神病を発症するリスクを評価しました。その結果、毛髪の亜鉛濃度の低さは精神病の発症リスクの高さと関連すること、精神病の発症リスクが高い児童では毛髪の亜鉛濃度が低いことがわかりました (図A)。したがって、精神病の発症リスクが高い思春期児童では、服薬をしていなくても、すでに体内の亜鉛濃度が低下している可能性が明らかになりました (図B)。精神病を発症するリスクがある思春期児童に対しては、なるべく早い段階からの適切な理解やサポートが大切ですが、これまで確立された検査法はありませんでした。今回の研究で行なった毛髪亜鉛濃度の測定は採血よりも負担が少ないため、病院やクリニックにとどまらず学校や地域での活用も期待されます。毛髪の亜鉛濃度を知ることで発症リスクのある児童に対する早期発見・早期介入が可能になるかもしれません。今後も長期的な追跡研究を行うことにより、亜鉛と精神病の関連性についてさらに検討する必要があります。

図A、図B
(図A) 青色の点線で表された回帰直線は、毛髪の亜鉛濃度が低いと精神病の発症リスクが高いことを示している。
(図B) 精神病の発症リスクが高まっている思春期児童では、すでに体内の亜鉛濃度が低下している可能性がある。

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