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尿中エキソソーム含有miRNAは精神病様体験の持続を予測する


統合失調症プロジェクト 研修生(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)富田 康文
統合失調症プロジェクトリーダー新井 誠

思春期の 6人に 1人が PLEs1)を経験しますが、ほとんどは成長とともに無くなることが報告されています(Linscott et al. Psychol Med. 2013)。一方で、思春期後半になっても PLEs が持続する場合にはその後に精神疾患を発症する可能性が高いことが知られています。(Dominguez et al. Schizophr Bull . 2011)。思春期において PLEs が、一過性で無くなるのか、その後も持続するのかをより早い段階で予測することが重要です。しかし、そのようなバイオマーカーを探索する研究がこれまで十分になされていませんでした。

本研究は、東京ティーンコホート事業と連携し、345名の思春期児童を対象に研究を行いました。研究開始時(13 歳時)と 1年後(14歳時)の 2時点で、アンケートによる調査と精神科医による面接を行い、PLEs の有無や程度を評価しました。345 名の児童のうち、2時点とも PLEs の評価ができた児童は 282名でした。そのうち、 PLEs が研究開始時にはあったが 1 年後には無くなった児童(PLEs 消退群)は 62名、研究開始時から 1年後まで持続した児童(PLEs 持続群)は 15名でした。

次に、PLEs 持続群 15名と年齢・性別を合わせた PLEs消退群 15 名において尿中エキソソーム含有 miRNA2)の発現量を比較しました。その結果、PLEs 持続群では 6種類の miRNA 発現量が有意に低いことがわかりました。さらに、6種類の miRNA 発現量を用いて 1年後も PLEs が持続するかどうかについて検討したところ、PLEs 持続を高い精度で予測することができ、尿中エキソソームが精神病の発症リスクの高さを予測できる可能性が示されました(図)。思春期に PLEs が持続する場合には、早い段階からの適切な支援が大切ですが、これまでそのような状態を予測することは容易ではありませんでした。今回の研究で、尿を用いることにより、精神病を発症するリスクの高さを早期に発見できる可能性が分かりました。将来、6種類のmiRNA の機能を詳細に検討することによって精神病の発症メカニズムが明らかとなり、より適切な支援や予防に役立つ情報を得ることが期待されます。

【論文】

Tomita Y, Suzuki K, Yamasaki S, Toriumi K, Miyashita M, Ando S, Endo K, Yoshikawa A, Tabata K, Usami S, Hiraiwa-Hasegawa M, Itokawa M, Kawaji H, Kasai K, Nishida A, Arai M. Urinary exosomal microRNAs as predictive biomarkers for persistent psychotic-like experiences. Schizophrenia (Heidelb). 2023 Mar 11;9(1):14. doi: 10.1038/s41537-023-00340-5.

【用語解説】

1) 精神病様体験(PLEs):
主に、現実に存在しないものを感じること(幻覚)や事実ではないことを勘ぐってしまうこと(妄想)を指し、思春期では6人に1人が経験している。
2) エキソソーム含有 miRNA(miRNA):
血や尿といった体液中には、細胞から放出された小さな小胞(エキソソーム)が存在する。エキソソームの中には体内の細胞の内容物が含まれており、その中には miRNA と呼ばれる遺伝子の発現を制御する分子も含まれている。
図