開催報告

2023年度 第5回 都医学研都民講座(2023年10月10日 開催)
「聴こえ」と健康な未来社会


難聴プロジェクトリーダー 吉川 欣亮

難聴は最も患者数が多い感覚器疾患であります。難聴の発症には遺伝的素因が深く関係することが知られていましたが、今後はスマートフォンなどパーソナルオーディオ機器の長時間使用による聴覚組織・細胞へのダメージの蓄積、高齢者人口の増加によって、患者が増加し、世界保健機関(WHO)の予測では、2050 年には世界の約 25 億の人が聴覚に何らかの障害を持つことになると予測しています。そこで今回の都民講座は、難聴治療の現状と、未来に向けた難聴治療への取り組みをテーマに、大阪大学大学院医学研究科の日比野浩先生をお迎えして開催しました。

日比野先生は今回の講演において、音の聴こえの仕組みと難聴の原因について最初に紹介され、難聴の診断、予防および治療の現状と未来を中心についてお話しされました。特に、特効薬がない難聴にとって重要な治療機器である補聴器と人工内耳の利点と、問題点について詳しくお話され、補聴器と人工内耳の実装における個人差や、操作性の難しさ、今後の改善点など、生理学者、耳鼻科医でありながら工学知識が豊富な日比野先生ならではの知識とメッセージが込められたお話に、講演後に参加者から多くのご質問を頂き、今回の都民講座はとても有意義なものとなったと私は感じております。

講演の中でもお話されましたが、私たちのプロジェクトは、日比野先生のグループ、大阪大学大学院基礎工学研究科の川野先生のグループ、東京理科大学理学部の由井先生のグループと医工連携チームを組み、加齢性難聴を治療標的とした新たな内耳の病態診断システム、遺伝子治療法、次世代人工内耳の開発に取り組んでおります。本年度の難聴治療のビックニュースは、難聴患者における遺伝子治療の成功であり1)、多くの先天性難聴患者に希望を与えました。私たちも日比野グループとともに新たな遺伝子治療法の開発に挑戦しており、その研究成果も含めた難聴治療における最新情報を都民、国民の皆さまに発信していきたいと考えております。

1)
Lv J et al. AAV1-hOTOF gene therapy for autosomal recessive deafness 9: a single-arm trial. Lancet. 2024, S0140-6736(23) 02874-X. doi: 10.1016/S0140-6736(23)02874-X.
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会場の様子