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ゲノム編集iPS細胞の移植による治療分子の生体内供給


再生医療プロジェクトリーダー宮岡 佑一郎

iPS 細胞を用いた移植治療には大きな期待が寄せられ、 iPS 細胞由来の網膜細胞移植や神経細胞移植など、いくつかの細胞種で治験が進められています。これまでの移植には、全て健康な人由来の iPS 細胞が用いられていますが、将来的にはゲノム編集という、細胞の遺伝情報の改変を可能にする手法により、治療効果を高めた iPS 細胞の移植治療も期待されます。そこで私達はその先がけとして、糖脂質の分解に必要なα - ガラクトシダーゼ(GLA)のはたらきが失われてしまうことにより発症するファブリー病の、ゲノム編集 iPS 細胞を用いた細胞治療を目指して実験を行いました。私達は以前の研究で、GLA の代わりに機能する改変型α -N- アセチルグルコサミニターゼ(mNAGA)という、治療に適した分子を開発していたため、まず mNAGA を産生して細胞外へと分泌するiPS 細胞をゲノム編集により作製しました。次に、作製した mNAGA 産生 iPS 細胞と、GLA の働きを喪失させたファブリー病モデル iPS 細胞を同一の容器中で培養したところ、mNAGA 産生 iPS 細胞からファブリー病モデル iPS 細胞へと mNAGA が提供され、GLA のはたらきが回復することを確認しました。さらに、この mNAGA 産生 iPS 細胞を、GLA のはたらきを喪失させたファブリー病モデルマウスに移植したところ、移植した iPS 細胞から mNAGA が生体内で提供され、マウスの肝臓においてGLA のはたらきが回復することが確認できました。一方で、肝臓における糖脂質の蓄積量については、治療として十分な減少を認めることができませんでしたので、iPS 細胞から提供される mNAGA の量を増加させるための遺伝子改変などを、今後の課題として見出すこともできました(Nakajima, Cell Transplantation 32:9636897231173734. 2023)。

本研究は、中島一徹研修生、小野輝美研修生(当時)と私が、遺伝子改変動物室の設樂浩志室長と明治薬科大学の櫻庭均教授、兎川忠靖教授の協力のもと実施しました。本研究により、ゲノム編集 iPS 細胞移植による治療因子の生体内供給の可能性が示されました。本研究ではファブリー病に着目しましたが、本研究の成果は他の疾患にも応用が期待されます。

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