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グルクロン酸はペントシジンの新たな前駆物質であり、統合失調症に関連する


統合失調症プロジェクト 主席研究員鳥海 和也

「我々はこれまで、一部の統合失調症患者において、血中にペントシジンとよばれるタンパク質の糖化修飾体が蓄積していることを報告してきました。このペントシジンは糖尿病などでも蓄積が認められ、グルコースやペントースなどの糖から合成されると考えられてきました。しかし、ペントシジン蓄積を示す統合失調症患者においては糖尿病患者とは異なり、血中でこれらの糖が高い値を示さないため、蓄積したペントシジンが一体どのように産生されているのかが分かっていませんでした。

そこで本研究では、ペントシジンの由来を明らかにするため、ペントシジンが高い人の血液と正常範囲内の人の血液を採取し、含まれる代謝産物を網羅的に測定することで比較検討を行いました。その結果、ペントシジンの高い人の血液には、「グルクロン酸」と呼ばれる物質が多く含まれることが分かりました。このグルクロン酸をタンパク質と混ぜて生理的条件下で温めたり、またモルモットに投与したりすると、ペントシジンが合成されることが明らかとなり、グルクロン酸がペントシジンの新たな前駆物質であることが分かりました。さらに、統合失調症患者の血中ではグルクロン酸が高い値を示しますが、その原因のひとつとして、統合失調症患者ではグルクロン酸を分解するアルド - ケトレダクターゼという酵素の活性が有意に減少していることを明らかにしました。

本研究の成果から、「アルド - ケトレダクターゼの活性低下によるグルクロン酸の蓄積が、ペントシジンの蓄積につながる」という統合失調症に関連した新たなペントシジン合成経路を同定することができました。今回の発見を利用することで、実際の統合失調症患者の病態を再現した細胞及びマウスモデルを作製することが可能となり、統合失調症におけるペントシジン蓄積の病態生理の理解、創薬研究に貢献できると考えています。また、このグルクロン酸による新規ペントシジン合成経路は、糖尿病などの代謝性疾患にも関与していると考えられますので、精神疾患以外の領域においてもペントシジン蓄積のもたらす病態の理解、及び創薬にも結びつく可能性を秘めています。

図. 成果の概要