認知症研究プロジェクト 亀谷 富由樹
パーキンソン病(Parkinson disease: PD)、レヴィー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies;DLB)および多系統萎縮 症(Multiple system atrophy: MSA)はα- シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積する代表的な疾患で、 PD および DLB では患者脳の神経細胞内にレビー小体(Lewy body)、MSA では患者脳のオリゴデンドログリア細胞内に嗜銀性封入体(Glial cytoplasmic inclusion: GCI)と呼ばれる構造物が形成蓄積し、それぞれがα- シヌクレインから形成された線維が構成成分であることが確認されています。
我々はこれまでに極低温電子顕微鏡(cryoEM)解析により、PD/DLB および MSA と診断された患者脳に蓄積するα- シヌクレイン線維のコア構造が異なることを示してきました(Nature 585, 464‒469 (2020); Nature 610, 791‒795 (2022))。
この研究では、DLB および MSA 患者脳に蓄積したこれらのα- シヌクレイン線維をサルコシル界面活性剤を用いて抽出し、線維を形成していたα- シヌクレインに存在している翻訳後修飾(Post translational modification: PTM)を解析し、cryoEM から得られたα - シヌクレイン線維コア構造や病理学的特徴との関係を検討しました。
さらに、α- シヌクレイン遺伝子に7アミノ酸残基の挿入変異を持つ若年発症シヌクレイン症(Juvenile-onset synucleinopathy: JOS)患者脳にはレビー小体が多量に蓄積する。このα- シヌクレイン線維における PTM も解析し、DLB および MSAα- シヌクレイン線維との違い、線維コア構造等との関係についても検討しました。
MSA、DLB および JOS において同定されたα- シヌクレイン線維のPTMは下の図1に示したようになりました。 MSA、JOS、および DLB の PTM を比べてみると、N 末側0-30 残基および C 末側 100-140 残基の領域では切断部位以外のユビキチン化、脱アミド化、酸化、リン酸化等は類似していることが判明しました。しかし、30-100 領域(この領域は図2に示したように、cryoEM での解析から、α- シヌクレイン線維コア構造を形成しています)においては、MSA 線維でアセチル化、メチル化、酸化、リン酸化が頻繁に検出されましたが、DLB 線維ではほとんど検出されませんでした。この領域の PTM の違いは図2に示してあるように、α- シヌクレイン線維コア構造の違いを反映していると考えられました。JOS 線維におけるPTM の検出パターンは MSA 線維に類似していました。このことは図2に示したように JOS 線維コア領域の構造の一部が MSA 線維コア構造に類似していることによると考えられました。
また、DLB 線維では、α- シヌクレインの切断が 119 番目アスパラギン酸残基(D)および 122 番目アスパラギン残基(N)の C 末端側で発生していましたが、MSA 線維の場合は、109 ~ 123 番目アミノ酸間の複数部位で発生し、 JOS 線維では 114 ~ 123 番目アミノ酸間の複数部位で発生しており、切断パターンも JOS と MSA では類似していました。この切断部位の変動も線維構造の違いを反映していると考えられました。
我々は以前、脳内にタウタンパク質が線維形成蓄積する疾患のタウ線維における PTM パターンがタウ線維コア構造に依存することを報告してきました (Front Neurosci. 2020, 14:581936)。今回の解析でも、α- シヌクレイン線維での PTM パターンは線維コア構造に依存することが示されました。
Kametani F et al. Analysis and comparison of post-translational modifications of α-synuclein filaments in multiple system atrophy and dementia with Lewy bodies. Scientific Reports, 2024, 14(1), 22892: doi: 10.1038/s41598-024-74130-z.(系統萎縮症とレビー小体型認知症におけるα - シヌクレインフィラメントの翻訳後修飾の解析と比較)