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視野内で注目すべき部分を予測し、素早い反応を支える脳の仕組みを解明


脳機能再建プロジェクト 横山 修

自動車の運転中、注意が散漫になっていて、突然道路にボールが飛び出してきて「ハッ」とした経験はありませんか?一方で、集中して運転しているときには、進行方向に目を向けながらも、交差点や歩道、合流する路地など、歩行者や自転車が飛び出してくる可能性の高い部分を気にかけることができます。つまり、次に何か重要なものが現れる可能性のあるエリアを予測しておくことで、不要なものに気を取られず、そのエリア内に何かが現れたときに素早く対応できます。このような、視野の中で注目すべきエリアを予測して次の行動を準備するはたらきは、脳のどこで、どのように行われているのでしょうか。その仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。

私たちは、行動中のサルの脳を調べることで、脳の前頭葉の真ん中あたりにある「補足眼野(ほそくがんや)」という領域の神経細胞(ニューロン)の働きから、視野の中で注目すべき部分を予測することによってその中に現れたものに正しく視線を向けることのできる仕組みを発見しました。この領域にあるニューロンは、それぞれが視野内の異なる位置の情報処理を担当します(図1)。サルに注目すべきエリアを指示したとき、そのエリアの中を担当するニューロン群が、実際に何かが現れる前から活動を上昇させて準備していることを発見しました。この準備のおかげで、実際にそのエリア内に何かが現れたときに活動がより高まり、情報処理が促進されることがわかりました(図2)。さらに、準備すべきタイミングで補足眼野に弱い電気刺激を与えてニューロンの活動を乱すと、注目すべきエリアとは別の場所に現れたものに視線を向けてしまう間違いが増えました。これは、補足眼野ニューロンが「どこを注目すべきか」を事前に予測し準備する役割を担っている証拠です。

この研究成果は、これまで明らかにされていなかった「広い範囲に注意を向ける脳の仕組み」に関連するものです。運転やスポーツなど、視野を広く保ち行動を素早く起こす必要がある場面でのパフォーマンス向上に役立つ新しいトレーニング法の開発につながる可能性があります。さらに、加齢や疲労によってこうした認知機能が低下する現象を生理学的に理解し、それを改善するための訓練法の開発にもつながることが期待されます。

図1:補足眼野にあるニューロンはそれぞれ、異なる視野内位置の情報を処理している。
図1:補足眼野にあるニューロンはそれぞれ、異なる視野内位置の情報を処理している。
図2:図2:注目すべきエリアを担当するニューロンが活動を増加させることによって準備する。
図2:注目すべきエリアを担当するニューロンが活動を増加させることによって準備する。

【論文】

Yokoyama O et al. Preselection of potential target spaces based on partial information by the supplementary eye field. Communications Biology, 2024, 7.1, 1215. doi: 10.1038/s42003-024-06906-z.