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演者 | 伊藤 浩介 新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センター 准教授 |
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会場 | オンライン(Zoom) |
日時 | 2022年5月11日(水曜日)16:00~17:00 |
世話人 | 石田 裕昭 統合失調症プロジェクト |
参加自由 | 詳細は下記問合せ先まで |
お問い合わせ |
研究推進課 普及広報係 電話 03-5316-3109 |
ヒト脳は、進化により少しずつ、その機能を獲得してきた。すると、ヒトに特有の高次脳機能の理解には、ヒトと非ヒト霊長類の脳機能を比較する進化学的な視点が有用だろう。ただし、これには、ヒトと動物の両方で評価可能な、共通の脳機能の指標が必要である。そこで演者は、無侵襲のヒト脳波記録法を非ヒト霊長類に適用することで、同一の実験条件かつ同一の脳指標による、脳機能の厳密な種間比較を行う実験系を確立した(Itoh et al., 2015, 2021, submitted)。この方法により、アカゲザルやコモンマーモセットなど非ヒト霊長類の聴覚誘発電位を頭皮上から無侵襲で記録し、純音刺激に対する大脳聴覚野の応答をヒトと比較したところ、聴覚処理の特に時間的な側面に、様々な種差があることがわかってきた。例えば、聴覚誘発電位の大脳成分の潜時は、脳が大きくなると延長し、ヒトで特に遅延していた(Itoh et al., 2022)。また、聴覚刺激が時間的に統合される時間幅(時間統合窓)も、ヒトで延長していた(Itoh et al.,2019)。つまり、ヒトの聴覚処理は、音を長い時間スケールでひとまとまりのパターンとして処理する方向に進化してきたようである。そして、こうした種差に呼応するかのように、音楽のような複雑な聴覚刺激の時間処理にも種差が見られた(Itoh et al., unpublished)。こうした聴覚野の機能の違いが、ヒトにおける言語や音楽の進化を、知覚の側面から支えたのかもしれない。
References:
Itoh et al., Hearing Research (2015); Itoh et al., Frontiers in Neuroscience (2019); Itoh et al., Hearing Research (2021); Itoh et al., Scientific Reports (2022).