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(録画・録音・撮影、無断転用は固くお断りします)

『老化と健康』
食、運動、眠り、脳トレ、メンタルケア・・・ 私たちは今何をしたら良いのか?

第2回 心の健康と老化
- このテーマは終了しました-

演者 糸川 昌成
東京都医学総合研究所 副所長
開催方式 オンライン(Zoom)
日時 2022年9月30日(金)14:00〜
※講演は1時間程度を予定しています。
世話人 正井久雄
所長
参加自由 詳細は下記問合せ先まで
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お問い合わせ 研究推進課 普及広報係
電話 03-5316-3109

講演要旨

人類は約20万年前にアフリカで誕生して以来、そのほとんどの時代を飢餓と感染症に脅かされながら生き延びてきました。公衆衛生の向上等により特に乳幼児期の死亡率が減少したのは、それほど昔のことではありません。夏目漱石が留学したころのイギリスの平均寿命はわずか45歳、アメリカは47歳、日本は43歳だったのです。生まれた子供のほとんどが早逝することなく80年前後の人生を送る社会を、これまでの人類は経験したことがありませんでした。

ところで、老化が人体部品の文脈で語られることがあります。たとえば、歯のエナメル質は年齢とともに摩耗し、アメリカでは60歳の時点で平均して3分の1の歯を失います。一生の間に顎の筋肉量は40%減少し、下顎の骨量は20%低下して脆くなります。したがって、高齢者には消化の良い柔らかい食事をすすめるようになります。そして、血圧や脂質を調節し、壊れた関節や弁を人工物で置換するようになりました。このように、能力主義と蛋白質の品質、部品の性能といった観点から老化を管理する現代の発想は、高齢者の生活維持をともすれば機械論的な修理作業に貶める危険性をはらんではいないでしょうか。

75歳から106歳までの修道女678名の疫学調査ナン・スタディが、1986年に米国ノートルダム教育修道女会で開始され現在も進行中です。ナン・スタディでは、生前の認知機能検査で認知症がないと診断された修道女の12%に、死後の脳解剖でアルツハイマー病の病理変化が認められました。なぜ、蛋白質の病的性能は生前の彼女らの健康を冒さなかったのでしょうか。

その答えのひとつに、脳が心の一部ではあっても全てではないという事実があるかもしれません。たとえば、尊厳という脳の部品は存在しませんし、自尊心という蛋白質もありません。人類がこれまでに出会ったことがないほどの超高齢化社会を迎えていますが、心健やかに暮らす長寿者を支えた共同体の知恵は、これまでの人類社会にも、現代の世界各地のコミュニティにも存在しています。人との関係性や生活習慣など修道女の若いころからの来歴にも、心の健康と老化を考える上でのヒントが満ちています。本セミナーでは、部品の品質管理とは異なる観点から、健やかな心と老化についてお話しをしたいと思います。