Topics

大脳皮質一次運動野が同じ側の手の運動開始に関与することを発見
- 体が麻痺した患者の新しい治療法に期待 -


脳機能再建プロジェクトリーダー 西村 幸男
日本大学生産工学部 助教 中山 義久

日本大学生産工学部の中山義久助教(元当研究所 脳機能再建プロジェクト…主席研究員)は当研究所 脳機能再建プロジェクトの西村幸男プロジェクトリーダーらと共同で、運動の制御に関わる大脳皮質一次運動野が、同側の手の運動の開始に関与していることを明らかにしました。

本研究成果は、2025年1月27日(月)に、国際学術誌 Neuroscience Researchのオンライン版に掲載されました。


私たちの脳の司令塔である「大脳皮質一次運動野」は、これまで「右脳が体の左側を、左脳が体の右側を動かす」というように、主に体の反対側の動きをコントロールしていると考えられてきました。なぜなら、一次運動野から筋肉へとつながる神経の大部分が、体の反対側につながっているからです。
しかし、実は脳から同じ側の筋肉へつながる神経経路も存在することは知られていました(図1A)。ただ、この同じ側への神経経路は反対側の経路に比べて非常に少なく、その具体的な役割については、これまであまり注目されてきませんでした。
共同研究チームは、人間と体の仕組みがよく似たサルを使った実験を通じて、大脳皮質一次運動野が、「同じ側の手の動きの始まり」にも深く関わっていることを突き止めました。

この発見は、これまであまり詳しく分かっていなかった「脳が同じ側の手をどう動かしているのか」という謎を解き明かす上で、大きな一歩となります。

2. 今後の展望

この研究成果は、特に脳卒中などで体の片側が麻痺してしまった(片麻痺)患者さんの回復メカニズムを理解する上で、非常に重要な手がかりとなると期待されています。
これまでは、麻痺を治すために、損傷した脳の反対側の神経経路を回復させることに主に焦点が当てられてきました。しかし今回の研究は、麻痺していない側の一次運動野(つまり、麻痺した手と同側の脳)が、麻痺からの回復に関わる可能性があることを示唆しています。
これにより、将来的には、運動機能の回復を促すためのまったく新しい治療戦略やリハビリテーション方法の開発につながる可能性も出てきます。
なお、この研究で行われたサルを用いた動物実験は、東京都医学総合研究所…動物実験倫理委員会で適切に審議・承認されており、倫理的な配慮のもとで実施されました。

【論文】

Nakayama Y, Yokoyama O, Hoshi E, Nishimura Y Premovement neuronal activity in the primary motor cortex is associated with the initiation of ipsilateral hand movements in monkeys. Neurosci Res. 2025 Apr;213:95-109. doi: 10.1016/j.neures.2025.01.005

図1:一次運動野から手の筋肉に至る解剖学的経路と本実験の実験方法
図2:同側の手の運動開始に関わる神経細胞の例