開催報告

※開催報告の所属先名については、開催日時点のものです。

第14回 都医学研シンポジウム(2025年3月17日 開催)
創薬を目指したバイオエンジニアリング


がん免疫プロジェクトリーダー丹野 秀崇

3月17日に第14回都医学研シンポジウム「創薬を目指したバイオエンジニアリング」を開催しました。近年、iPS細胞やmRNAワクチン等のアカデミア発バイオテクノロジーが創薬研究を大きく変革しています。そこで、本シンポジウムではバイオエンジニアリング分野を牽引する先生方をお招きし、最先端の成果をご紹介いただくとともに、創薬研究の展望について議論を深めました。

まず、当研究所の丹野秀崇プロジェクトリーダーからは抗体および T cell receptor (TCR) が免疫系で重要なタンパク質であるにも関わらず、その配列解析は難しいことが説明されました。そこで、抗体・TCR の配列を高速に解析できる手法を開発し、また、それをどのように癌研究に応用しているかをお話ししました。

東京大学の小嶋良輔先生は二つのテーマについてお話しされました。一つ目は細胞表面抗原に結合した時にのみシグナルが大きく上昇する activatable 型蛍光プローブについて発表され、病気の診断等での活用が期待されました。二つ目はドラッグデリバリーシステムとして注目されている細胞外小胞についてお話しいただきました。遺伝子工学的手法により細胞外小胞の放出・運命を制御する因子を網羅的に解明されており、将来的に細胞外小胞を自在に操作できる技術基盤の確立が期待されました。

続いて東京大学の竹田誠先生からは光によるウイルス制御についてご講演いただきました。竹田先生の研究室では光応答性タンパク質を、モノネガウイルス(麻疹ウイルス等)のゲノムに組み込むことで、光によってウイルスの増殖、遺伝子発現を制御することに成功しています。また、腫瘍溶解作用を持つ麻疹ウイルスを光によって操作し、時空間的に癌細胞を殺傷できることをお話しいただきました。

次に、立教大学の末次正幸先生がプラスミド DNA の無細胞増幅技術についてご講演されました。従来は大腸菌にプラスミドを導入し増幅・精製する手法が必須でしたが、末次先生は大腸菌の複製因子群を試験管内で再構成し、大腸菌を介さずにプラスミドを大量合成する革新的手法を確立されました。この技術を基盤に創業したオリシロジェノミクス社を、設立からわずか4年でモデルナ社に売却したサクセスストーリーについてもご紹介されました。

最後に東京大学の山東信介先生からはペプチドの細胞膜透過性に関してご講演いただきました。ペプチドはタンパク質間相互作用を選択的に阻害できるため創薬対象として有望ですが、低分子化合物と比べて細胞内に入りにくいという課題があります。山東先生の研究では、何故ペプチドが細胞内へ入りづらいのかを原子レベルで解明されており、その知見を基に自在にペプチドの細胞膜透過性を操作することをお話しいただきました。将来的に細胞内に浸透できるペプチド医薬品の創出が期待されました。

いずれの講演も極めてハイレベルで、創薬研究の新潮流を俯瞰するうえで意義深いシンポジウムとなりました。

第14回都医学研シンポジウム「創薬を目指したバイオエンジニアリング」閉会後、集合写真を撮影
第14回都医学研シンポジウム「創薬を目指したバイオエンジニアリング」閉会後、集合写真を撮影いたしました。
シンポジウム講演中の会場風景。聴講者は熱心に耳を傾けていました。
シンポジウム講演中の会場風景。
聴講者は熱心に耳を傾けていました。