脳神経回路形成プロジェクトリーダー丸山 千秋
2025年4月15日(火)から16日(水)に第30回都医学研国際シンポジウムを開催いたしました。脳科学における革新的な知見を共有し、国際的な研究交流を促進することを目的とし、国内外のトップランナー研究者をアメリカ、イギリス、フランス、スペイン、ブルガリア、台湾と様々な国より招聘しました。3月より医学研に滞在していた Oxford 大学の Zoltán Molnár 教授も当シンポジウムのオーガナイザーとして加わっていただき、活発な議論をリードしました。
私たちの脳、特に大脳新皮質の精巧な構造とその進化メカニズムの解明は、長年の研究課題です。胎児期に神経細胞が秩序正しく配置され、神経回路が形成されるプロセスは、脳・神経疾患の理解にも不可欠です。本シンポジウムは、2019 年に開催された前回に続く第2弾として、脳の発達メカニズム、進化の謎、分子レベルの洞察に焦点を当てた議論が展開されました。シンポジウムは2日間にわたり、招待講演、ショートトーク、ポスターセッションで構成され、脳科学の最前線を垣間見ることができました。
「1. 脳の進化と多様性」のセッションでは、神経発生プロセスの種差と共通性やヒト脳の特異的発達メカニズムに焦点を当てた発表がありました。ネアンデルタール人由来の GLI3 遺伝子変異をマウスに導入すると、骨格・神経細胞密度に大きな影響があったという興味深い内容や、ヒト特異的 Notch2NL 遺伝子が脳サイズ増大に寄与し、その変異が小頭症と関連する可能性等の発表がありました。「2. 脳発生における細胞動態と大脳皮質形成」セッションでは、神経幹細胞の多様なサブタイプとそれぞれの細胞での遺伝子発現調節が皮質の拡大としわ形成のパターンを制御することや、「3. 転写因子と神経分化」のセッションは、大脳皮質の発達における転写因子 COUP-TFI、Zbtb20、 NFI ファミリーの役割に焦点を当て、脳領域特異性と境界形成、神経細胞分化の分子メカニズムに関する発表がありました。「4.大脳皮質の発達における一過的な細胞の役割」のセッションではサブプレート(SP)層の進化的な拡大と遺伝子、カハールレチウス(CR)細胞の生と死のメカニズムと病態への影響、成体残存 SP 細胞の役割と認知障害についての知見を共有しました。最後に「5. 神経活動と外部環境因子」のセッションで脳発達の多角的な調節メカニズムに焦点を当て、脳脊髄液の役割と脳進化、神経 -ミクログリア相互作用の活動依存性と性差等について議論しました。
本国際シンポジウムは、脳の発生・進化に関する最先端研究の発表と、世界をリードする研究者間の密接な意見交換の場として実り多きものとなりました。参加者からは、「分野のトップランナーの研究に触れ、深く議論できた貴重な場であった」「2日間の交流を通じて国際的な共同研究の可能性が広がった」といった声が多数寄せられました。
都医学研は今後も、このような国際的な学術交流を通じて、医学研究のさらなる発展と、その成果の社会実装に貢献してまいります。ご登壇、ご参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。