開催報告

2025年度第2回都医学研都民講座(2025年6月19日開催)
鳥インフルエンザと私たちの暮らし:正しい知識で正しく対応


感染症医学研究センター 感染制御ユニットリーダー安井 文彦

「2025 年度第2回都医学研都民講座」は、鳥インフルエンザウイルスへの理解を深めることを目的に、北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授を講師に迎え、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。高病原性鳥インフルエンザウイルスは、鶏などに大きな被害をもたらすため、畜産業界にとって深刻な感染症の一つです。

また、1997 年に中国でヒトへの感染例が初めて報告されて以来、まれではあるものの、世界中で継続的にヒトの感染が報告されています。

まず、私から「高病原性鳥インフルエンザウイルス感染に対する予防と治療の基礎研究」と題して、当ユニットで進めている研究について紹介しました。日本では、 2016 年度から高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染流行に備え、流行予測株を選定してプレパンデミックワクチンを備蓄しています。しかし、既存のプレパンデミックワクチンは高い安全性を持つ一方で、ワクチン作製に使用したウイルス株とは異なる変異株に対する予防効果が減弱することに課題はあります。そこで、我々は高度弱毒化ワクシニアウイルスベクターを用いた鳥インフルエンザワクチンを新規ワクチン候補として開発し、動物モデルを用いてそのワクチン効果の長期持続性と異なるウイルス株に対する幅広い有効性について報告しました。また、新規治療薬開発に関する研究では、既存のインフルエンザ治療薬とは異なる作用機序を持つ特殊環状ペプチドを開発し、ウイルス感染後の日数が経過した場合でも治療効果を示す可能性があることをお話ししました。

続いて、迫田教授から鳥インフルエンザウイルスの基礎、疫学調査、そして応用研究に至るまで幅広い内容でご講演いただきました。鶏に感染した場合に高い致死性を示す「高病原性」鳥インフルエンザウイルスの特性、その鳥インフルエンザウイルスが渡り鳥によって運ばれて世界中に広がっており、日本では渡り鳥の飛行ルートに沿ってウイルスが持ち込まれている現状についてお話しいただきました。この環境中のウイルス量が増加することで、養鶏場内の鶏や他の動物種などに感染リスクが高まるため、養鶏場などでの衛生対策を徹底することが感染リスクを下げることに繋がるとご説明されました。また、鶏や鴨にワクチンを接種している国がある一方で、日本ではなぜ殺処分で対応しているかについて、水面下でのウイルス感染拡大リスクや市場経済上の難しさなどを例に大変分かりやすく詳細に解説していただきました。さらに、迫田教授の研究室でキタキツネから分離したウイルス株が現在のプレパンデミックワクチン株に認定された事例が紹介され、基礎研究がワクチン製造へと発展した貴重な例として示されました。最後に、絶滅が危惧されている希少鳥への対策として、抗インフルエンザ薬によるオジロワシの治療研究を紹介いただきました。

講演内容に対して複数のご質問をいただき、講演後のアンケートでも本講演が好評だったことを知り、迫田教授に講師をお引き受けいただけたことに改めて感謝しております。鳥インフルエンザは、私たちの生活に直接的・間接的な影響を与える重要な課題です。この講演が、皆様の理解を深める一助となれば幸いです。

講師

ikeda

安井 文彦

  • ● ベクターワクチン技術を用いた次世代ワクチンの開発動向について解説。
  • ● 既存ワクチンを上回る有効性と利便性を両立する可能性を示す。
  • ● 新たな治療薬候補「iHA-100」の作用機序と、感染後期での効果に関する研究成果を紹介。
mizuno

迫田 義博 教授 北海道大学 大学院獣医学研究院長

  • ● 渡り鳥による世界的な拡散と感染のメカニズムを解説。
  • ● 畜産業・野生動物・ヒトへの影響とその対策を解説。
  • ● 最新研究結果とその応用を紹介。