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ペントシジン蓄積の新たな遺伝素因を発見

統合失調症プロジェクトリーダー新井 誠

ゲノム技術の進歩によって大規模なゲノム解析が推進され、コピー数多型(CNV)やその領域に含まれるマイクロRNA(miRNA)による遺伝子発現の調節機構が注目されています。私たちはこれまでペントシジン蓄積という特定の代謝経路障害をもつ統合失調症の亜集団に着目し、統合失調症の病因に寄与する遺伝・環境因を探求してきました。

本研究では、ペントシジン高値の症例と正常値の症例のゲノムの特徴を解析しました。その結果、ペントシジン高値の症例では、CNV領域に含まれるmiRNA数が正常値群と比べて約9.8倍集積していることが明らかになりました。次に、同定されたmiRNAがどのような標的遺伝子群を介して分子ネットワーク制御に関与しているのかを解析した結果、グルタミン酸分泌やGABA受容体シグナル伝達に関与するシナプス神経伝達機能や抗酸化ストレス機能に関与するネットワークがmiRNAによって影響を受けていることを発見しました(図)。本研究は、ペントシジンが蓄積している症例においてmiRNAが糖化・酸化ストレス、シナプス機能を制御していることを示唆する日本人ゲノムを用いた初めての成果です。ペントシジンが蓄積する症例の病態に強い影響をもつmiRNAが患者で高頻度に見つかったことから、今後はペントシジン高値の統合失調症に対する治療・予防アプローチのひとつとしてこれらのmiRNAを標的とした戦略が期待されます。

miRNAsが糖化とシナプス機能を同時に制御

図 miRNAsが糖化とシナプス機能を同時に制御
miRNA領域の欠失・重複が、標的遺伝子群の発現変動を介し、ペントシジン蓄積を惹起している可能性がある。
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