HOME刊行物 > Jul. 2022 No.046

Topics

統合失調症と関連するAKR1A1遺伝子変異はエキソンスキップを生じ酵素活性の低下を引き起こす

統合失調症プロジェクト 主席研究員鳥海 和也

統合失調症プロジェクト 研修生飯野 響歌

統合失調症患者の末梢血では健常者に比べてグルクロン酸が高く、治療薬の代謝に影響している可能性が示唆されています。グルクロン酸はアルドケトレダクターゼファミリー1メンバーA1(AKR1A1)により代謝されるため、AKR1A1活性の変化がグルクロン酸量に影響を与えることが考えられますが、統合失調症においてその活性変化や遺伝子変異の影響を評価した報告はありませんでした。そこで本研究では、統合失調症患者から抽出されたゲノムを用いて、AKR1A1遺伝子に着目した遺伝学的解析を行いました。その結果、4箇所の新規バリアントを含む28箇所のバリアントを確認し、その中でも753番目のグアニンがアデニンに置き換わったc.753G>A は、統合失調症患者で14例、健常者で5 例確認され、患者で頻度が高い傾向が認められました。また、264番目のシトシンが欠失したc.264delC は統合失調症患者の1例でのみ確認されました。その後の解析の結果、c.753 G>A バリアントはアミノ酸の置換を生じませんが、エキソン8の先頭に位置するため、スプライシングによりエキソン8の読み飛ばしが生じ、フレームシフトを生じることが明らかになりました。この時、産生された断片型のAKR1A1とc.264delC バリアントにより産生される断片型のAKR1A1は、どちらもほとんど酵素活性をもたないことを確認しました。実際に、ヒト赤血球を用いてAKR1A1の酵素活性を測定したところ、c.753G>A バリアントをもつ統合失調症患者では、もたない人に比べて酵素活性が低下する傾向が認められました。以上の結果は、c.753G>A バリアントを持つ統合失調症患者では、AKR1A1 の機能活性低下を介したグルクロン酸の蓄積により、治療抵抗性が生じている可能性を示しています。今後、より多くの患者を対象とし、AKR1A1 のc.753G>A のバリアントとグルクロン酸の蓄積、および治療抵抗性との関連性について検討する必要があります。

AKR1A1遺伝子内バリアントとエキソンの読み飛ばし
AKR1A1 遺伝子内バリアントとエキソンの読み飛ばし
a)
同定された新規バリアント(青矢印)、コーディング領域におけるバリアント(赤矢印)、その他のバリアント(黒矢印)を示す。
b)
野生型(WT)とc.753G>A バリアント(MT)におけるスプラシングの違いを示す。MTでは、どの細胞においてもエクソン8の読み飛ばしが生じた。
c)
c.264delC 及びc.753G>A バリアントより生じる断片型のAKR1A1 タンパク質の活性を示す。どちらのバリアントの産物も、AKR1A1 活性を持たなかった。
ページの先頭へ