統合失調症プロジェクト 協力研究員 田畑 光一
統合失調症プロジェクト プロジェクトリーダー 新井 誠一
近年、血漿ホモシステイン濃度の増加が統合失調症の発症リスクや重症度に関連することが報告されています。また、動物や細胞を用いた基礎研究では、ホモシステインは酸化ストレスや炎症を促進して大脳白質を障害することが分かっています。他方、MRI 拡散強調画像という水分子の動きを画像化する技術を用いた解析により、統合失調症患者における大脳白質の微細な構造異常が報告されています。しかしながら、統合失調症患者の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造の関連については分かっていませんでした。本研究では、京都大学精神科神経科と共同で、統合失調症患者 53 名、健常者 83 名を対象に研究を行いました。採血にて血漿ホモシステイン濃度を測定し、同日に MRI の撮像を行いました。MRI 拡散強調画像を用いた解析により、健常者群と比べて患者群で大脳白質の微細な構造異常が認められる脳領域の探索を行いました。解析の結果、患者群では大脳白質の広範囲で微細な構造異常が認められ、この結果は先行研究と一致していました。次に、患者群で認められた大脳白質の微細な構造異常マーカーの平均値を算出し、この値が血漿ホモシステイン濃度と関連するかどうか解析を行いました。解析の結果、患者群では、血漿ホモシステイン濃度の増加が大脳白質の微細な構造異常マーカーに有意に関連していました。一方、健常者群ではこのような関連がみられませんでした (図)。本研究では、統合失調症患者では血漿ホモシステイン濃度の増加が大脳白質の微細な構造異常に関連することを世界で初めて報告しました(Tabata et al., Schizophrenia , 2024)。健常者ではこの関連がみられなかったことから、統合失調症ではホモシステインが大脳白質の微細な構造異常に関与しており、このことが病態生理メカニズムの一つである可能性が示唆されました。高ホモシステイン血症の治療薬であるベタインが統合失調症症状を実際に改善したという報告もあり、今回の発見は、既存の向精神薬とは異なる作用機序を持つ新たな治療薬の開発に寄与すると考えています。今回の研究では、あくまで一時点での統合失調症の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造との関連を示しました。今後は縦断的な研究を行うことにより、血漿ホモシステイン濃度の増加が大脳白質の構造異常を実際に引き起こし、それが統合失調症の発症や臨床的転帰に関与するかどうか等、より詳細な検討を行う必要があります。
Tabata, K., Arai, M. et al. Association of homocysteine with white matter dysconnectivity in schizophrenia. Schizophrenia, 10.39, 2024. doi: 10.1038/s41537-024-00458-0(統合失調症ではホモシステインが大脳白質の微細な構造異常に関連する)