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てんかん

3.てんかんの診断と治療

てんかんの診断は臨床症状の正確な把握が原則ですが、ベッドサイドでの諸検査があり、最新の検査法もあります。発作を発生させる大脳の部分を焦点と言い、それがどこにあるのかを調べることを焦点診断といいます。焦点診断の基本は、発作症状の解析、脳波、画像検査などがあります。

(1)脳波検査

頭皮に電極を装着し、脳の電気的な活動を増幅させて記録するのが脳波検査です。安静覚醒時に基礎派を確認し、過呼吸、開閉眼、光刺激、睡眠誘発などで波形の変化を検出します。発作症状と脳波所見の関係を分析するためには、ビデオ脳波同時記録終夜睡眠脳波などを駆使します。また、難治性てんかんの外科治療において、手術中に大脳表面に電極を直接置いて脳波を記録しながら(術中皮質脳波測定)、処置を行なう高度医療も一部の専門病院では行なわれています。このことについては、後で説明します。

(2)画像検査

大脳の形態異常を検出するため、CT(コンピューター断層検査)MRI(磁気共鳴装置)が行なわれます。MRIはT1強調画像、T2強調画像、FLAIR法など、いくつか条件を変えて撮影することにより、詳細な脳の形態的な変化の描出が可能です。この方法で、脳腫瘍、脳形成異常、頭部外傷や脳炎などの後遺症、海馬硬化症など器質的な病変を発見することができます。また、脳血流を定性的に測定する画像検査(SPECT)や、脳内のブドウ糖代謝などを測定することができる画像検査(PET)など、脳の形だけでなく代謝を可視化させる検査で焦点を検出する方法もあります。

(3)その他の検査

脳内電気活動に伴って脳から発生する磁界を捉えて画像として描出する方法を脳磁図(MEG)といいます。焦点診断の高い精度など、今後の臨床応用が期待されていますが、高額で大型の検査機器が必要となり、検査ができる施設はまだ多くはありません。また、一般的に、発作焦点部は脳血流が増加することが知られていますが、その変化を比較的簡便に検出する方法に光トポグラフィー(または近赤外線マッピング法)があり、焦点診断の補助的な役割を担っています。


てんかん治療の原則

てんかんの治療の基本は抗てんかん薬による薬物療法です。てんかん患者人口のおおよそ70%は抗てんかん薬によって発作の抑制が可能です。一方、薬物抵抗性である難治性てんかんの一部には脳外科療法も行なわれます。その他、ガンマナイフ、迷走刺激装置を用いた特種な治療法も試みられています。

また、就学や就労、社会生活上の不都合や不利益を克服するために、看護士、心理士、リハビリテーション療法士、ソーシャルワーカーらと協力した包括医療体制を充実させてゆくことや、行政を含む社会の理解が重要となってきます。


薬物療法

(1)抗てんかん薬の種類

これまで日本では、カルバマゼピン(carbamazepine)、フェノバルビタール (phenobarbital)、フェニトイン(phenytoin)、バルプロ酸(valporate)、ゾニサミド(zonisamide)、クロバザム(clobazam)などが抗てんかん薬として認可され臨床の現場で使用されています。ナトリウムイオンチャンネル阻害作用、カルシウムイオンチャンネル阻害作用、抗グルタミン酸作用、GABAレセプター促進作用など様々なメカニズムが知られていて、いろいろなタイプの発作に抑制効果があります。

一方、欧米では、最近約10年間に上記以外の新薬が次々と開発され、実用化されてきています。しかし、日本では、多くの患者に対する治験(第3相試験)が終わって、国の承認を待っている薬剤が多くあります。

(2)薬物療法の注意点

投薬開始時期、薬剤の種類や投与量単剤使用か多剤併用か、いつ投薬を中止するかどうか、妊婦への配慮、など多くの臨床経験に基づいた専門的な判断を要します。また、副作用が生じていないかどうか、正しく内服しているかどうか(コンプライアンスといいます)などを把握することも重要です。


脳外科療法

薬物療法で発作の抑制ができないいわゆる難治性てんかんに対して、脳外科治療が行なわれることがあります。この場合、薬物療法が適正に行なわれているにもかかわらず、難治性である、ということが前提となることは言うまでもありません。以下に、脳外科治療法の臨床の流れなどを説明します。

(1)手術による焦点診断法

難治性てんかんの外科治療にあたっては、正確な焦点診断が重要です。ここで言う焦点診断というのは、電気的な興奮が大脳表面のどこから発生しているのかを精密に調べることです。その方法には以下の2つがあります。

一つは電極留置術という、根治的な手術前の診断方法です。これは、手術の一週間ほど前に、脳波の電極を頭皮ではなく、大脳の表面に直接貼るための手術を行ない、その後、病院で普通の生活をしながら、脳波を24時間モニターし、発作を引き起こす過剰な電気的興奮を示す棘のような脳波形(棘波=スパイク)が脳のどこから発生しているのか、そしてどのように伝播しているのか、などを詳しく調べる方法です。

上記のような検査法の他に、根治的な手術中に、脳波を測定しながら手技をすすめる極めて高度な医療も行なわれています。それは、根治的な手術中に大脳表面に電極を装着し、スパイクがなくなるまで手術処置を行なう高度な方法です。この検査法を術中皮質脳波法といいます。

(2)てんかん外科手術の麻酔方法

てんかんの手術中に、上記のような精密な検査を行うには、覚醒時(麻酔がかかっていない状態)の脳波と同様の脳波を麻酔時に測定できなければなりません。そうでなければ、治療効果のある手術が行えないからです。それを実現できる麻酔方法として、2.5 %セボフルラン投与麻酔法が開発されました。そして、この方法を用いて、以下に説明するような高度な脳外科治療法が行われています。

(3)焦点切除術

てんかん発作を引き起こしている大脳皮質には、脳腫瘍頭部外傷後遺症脳虚血後遺症などの病巣がある場合があり、画像検査で見つけることができます。また、画像検査では特に病変はなくとも、てんかんの棘波(スパイク)を強烈に出している脳の部分もあります。どちらの場合にも、病巣を切除することによって、発作を抑制することが可能です。焦点切除術の後は、てんかん外科病理診断の専門医によって正確な診断をしますが、共同研究をしている東京都立神経病院脳神経外科での焦点切除例の内訳は図8の通りです。

図8.

図8.

焦点切除例の病変の内訳難治性てんかんの外科手術によって切除される焦点部には、様々な脳形成異常、脳腫瘍、血管病変、外傷などによる後遺症などいろいろな病変が観察される症例があります。

(4)側頭葉切除術

側頭葉てんかんでは、側頭葉の深部にある海馬という場所から発作が出ていて、海馬が高度に萎縮している場合があります(海馬硬化)。また、その近くの扁桃体という場所も同様な変化が生じている場合もあります。そのような場合、萎縮してしまった海馬、扁桃体を切除することによって、てんかん発作を抑制することが可能です。この方法には、海馬や扁桃体へのアプローチ方法や切除範囲など、様々なバリエーションがあります。

(5)脳梁離断術

大脳の片側に大きな病変があり、そこからの発作波が反対の大脳へ伝播して大きな発作を引き起こす場合があります。そのような場合は、左右の大脳を繋ぐ脳梁という部分の一部を切りはなすことにより、発作の広がりを抑制することが可能です。

(6)機能的半球切除術

これも上記と同様な目的で行われる手術で、大脳の広汎な病変を切除せずに、大脳内の発作波が伝播する線維を選択的に離断することによって、機能的に「切除」する方法です。これにより、従来の方法で問題となっていた出血による後遺症を残さずに治療することができるようになりました。

(7)軟膜下皮質多切術

大脳の表面には軟膜という薄い膜があります。その膜が張り付いている大脳の表面だけに細かな処置をすることによって、発作を抑制する方法です。この方法は、ノーベル賞を授与された1960年代の動物実験の研究を応用して開発されたもので、言語や運動の中枢といった重要な大脳に発生した病巣に対して、後遺症を残さずに機能的に「切除」することによって発作の伝播を抑制する画期的な手術法です。


ガンマナイフ療法

側頭葉てんかんでは海馬に萎縮している病変があると前に書きました。脳外科手術では、その病変(海馬硬化)を切除します。一方、このガンマナイフ療法では、頭部の骨を開けずに、ガンマ線を海馬に選択的に照射することによって、病変を破壊する方法で、いうなれば、放射線を用いた外科療法とも言えます。この方法はまだ一般的ではなく、現在、いくつかの大学などで、照射するガンマ線量や照射法のバリエーションなどが詳細に検討されています。


迷走神経刺激療法

てんかん発作の一部には、脳幹から出ている迷走神経という神経線維を刺激することによって、抑制することができる場合があります。迷走神経というのは、主に自律神経を正常に保つ働きがありますが、大脳の海馬などへも電気的な活動を及ぼしていることが知られています。この方法は、そのような迷走神経を刺激することによって発作を抑制しようとするもので、具体的には、心臓ペースメーカーのような迷走神経刺激装置を前胸壁に埋込みます。現在、てんかん外科手術を行っている全国の病院が共同して、どのようなてんかん発作にどのような効果をもたらすのか、などを検討しているところです。

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