HOME広報活動刊行物 > January 2013 No.008

研究紹介

目的ある行為を巧みに制御する前頭連合野の役割分担を解明
~高次脳機能障害の病態解明に期待~

米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience(ジャーナル オブ ニューロサイエンス)」に前頭葉機能プロジェクトの山形朋子研究員らの研究成果が発表されました。

認知症・高次脳機能研究分野星 英司

図1

人の脳には前頭連合野と呼ばれる領域があり(ちょうど、額の部分にあたります)、この部分が障害されると、目的ある行為が行えなくなります。このことは、前頭連合野が、目的ある行為において重要な役割を果たしていることを示唆します。しかし、前頭連合野が実際どの様に機能しているのかについては、謎に包まれていました。そこで、サルにコンピュータゲームをしてもらいながら、神経活動を調べる研究を行いました。

このゲームでは、色のついた画像(緑の円や、赤のダイヤなど)に続いて、左右に並んだ2枚のカードが現れます(図1)。“緑の円”なら右のカードを、“赤いダイヤ”なら左のカードを選ぶとジュースがもらえるというルールです。最初にカードの左右を決めても、その後、2枚のカードはいろいろな位置に出るので、カードが現れるまでは正しいカードの位置を決めることはできません。こうした工夫は、カードの左右を決めること(目的・判断)と、実際にカードに手を伸ばすこと(行為)を切り分けることを可能としました。

このゲームを行なっているサルの神経活動を調べたところ、前頭連合野に行動の目的と実際の行為を反映する神経活動が観察されました。さらに、こうした活動をもつ神経細胞が前頭連合野の中で異なって分布しており、3つの領野が役割分担していることが明らかとなりました。具体的には、(1)前頭前野の腹側部(黄色)は、行動の目的を決める、(2)前頭前野の背側部(ピンク)は、行為が完了するまで忘れずに目的を保持する、(3)高次運動野(緑色)は、目的から行為を選び取る、というものです(図2)。

今回の研究は、「目的を決め、そこから行為を選び取り、実行する」という日々行われる基本的な行動パターンにおいて、前頭連合野の3つの領域が役割分担している実際の様子を明らかにしました。今後、こうした研究を進めることによって、人で高度に発達した高次脳機能についてより深く理解できるようになると考えます。さらに、前頭連合野の機能失調によって誘発される高次脳機能障害の病態を、今回見出された役割分担などの観点からも説明できるようになり、その病態解明につながることが期待されます。

図2

Tomoko Yamagata, Yoshihisa Nakayama, Jun Tanji, and Eiji Hoshi

Distinct Information Representation and Processing for Goal-Directed Behavior in the Dorsolateral and Ventrolateral Prefrontal Cortex and the Dorsal Premotor Cortex
The Journal of Neuroscience, 12 September 2012, 32(37): 12934-12949

前頭葉機能プロジェクトのメンバー。左上から中山義久研究員、星英司副参事研究員。右上から橋本雅史研究員、有村奈利子研究員、山形朋子研究員。左下、小方智子技術員。(中央の3名は、本研究の取材にいらっしゃったNHKの記者さん。)

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