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開催報告

第18回 都医学研国際シンポジウム(平成30年12月19日開催)
Structured nucleic acids :
its recognition mechanisms, biology and diseases

ゲノム動態プロジェクトリーダー正井 久雄

会場の様子

ゲノムの本体であるDNAは、通常の右巻き二重らせん構造の他に、特徴的な高次構造を形成することがあります。これらの構造を有するDNAは、ゲノム上に多く存在する繰り返し配列上に形成される場合が知られています。最近の研究から、これらの構造を有するDNAは複製フォークの進行を妨げることによりDNA上に傷をつけ、ゲノム変異を誘導しがんなどの疾患の誘導原因となることが明らかになりつつあります。さらに、繰り返し配列の増幅により高次構造を有するDNA,RNAが過剰に形成され、これがALSやトリプレットリピート病などの神経変性疾患の原因となることも明らかになっています。一方、グアニン4重鎖構造(G4)など非B型DNA,RNAあるいはDNA-RNA複合体が複製、転写、組換え、転移などに関与し、多種多様な生物現象を制御することも続々と明らかとなり大変注目されています。

本国際シンポジウムでは、高次構造を有するDNAに着目し、それが、がん、神経変性疾患、認知症、などの疾患を引き起こす機構、あるいは、これらの構造を有するDNAを標的とした新しい創薬、ゲノム制御技術について最新の知見を、内外の最先端の研究者に紹介していただきました。

とくに、京都大学の杉山弘先生は、G4などのDNA高次構造を標的とする特異的化学プローブを多く創成するとともに、これらの高次構造の生物学的意義の解明を報告されました。大阪大学の中谷和彦先生は、トリプレットリピートが形成する構造に結合するリガンドを創成し、それらを使用して生体内のトリプレットリピートの長さを制御することに成功したことを報告されました。熊本大学の塩田倫史先生は、G4結合タンパク質ATR-Xの変異によるX連鎖αサラセミア・精神遅滞症候群の疾患発症のメカニズムおよびG4結合リガンドによる治療の可能性について、また、Chinese Academy of SciencesのZheng Tan博士は、試験管内および細胞内でのG4構造の形成とその制御について最新成果を報告されました。そのほか、Washington University School of Medicine(米国)のPeter Burgers 博士、Van Andel Research Institute(米国)のHuilin Li博士、Institute of Human Genetics(仏国)のPhilippe Pasero博士らから、構造特異的DNAおよびそれと相互作用するタンパク質について、その疾患との関連も含めて最先端の成果が発表されました。

シンポジウム後は研究所で交流会が開催され、さらに議論を深めることができました。核酸の高次構造が担うゲノム情報とその異常が引き起こす疾患に関する情報は、本研究所における、がん、神経変性疾患、精神疾患の解明に向けた研究にも大きな洞察を与えました。

集合写真

集合写真

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