HOME広報活動刊行物 > January 2016 No.020

研究紹介

ファブリー病治療薬に対する有害免疫反応を判定できる迅速測定キットを開発
~副作用につながる血液中の阻害抗体の迅速測定が可能に~

米国科学雑誌「PLOS ONE(プロスワン)」オンライン版にゲノム医科学研究分野の芝崎太参事研究員らの研究成果が発表されました。

分子医療プロジェクトリーダー芝崎 太

1 研究の背景

ファブリー病は、身体の代謝にとって重要な酵素であるα-ガラクトシダーゼA(GLA)の量や質に異常があり、激しい痛みや腎臓、 心臓および脳血管障害を来たす遺伝性難病です。この疾患は、長い間有効な治療法がありませんでしたが、最近では的確な診断がなされれば遺伝子工学で作った組換えGLAを補充する酵素補充療法が可能になっています。実際に、本邦でも600人以上の患者さんたちがこの治療を受けており、年々その数が増加傾向にあります。従来、ファブリー病はとても稀な病気であると考えられてきましたが、最近の疫学調査により、日本人約9,000人に一人という比較的高い頻度で発症する臨床的にとても重要な疾患であることが明らかになりました。

ファブリー病の原因はGLAを作る遺伝子の異常にありますが、その遺伝子異常の種類は様々です。そして、こうした遺伝子異常の多様性によりGLAの量や質の異常も様々で、それに伴ってそれぞれのファブリー病患者さんの発症年齢や重症度も異なること、さらに、GLA異常の中にはとくに治療を必要としない「機能的異型」と呼ばれるタイプも存在することが明らかになりました。こうした機能的異型を示す人は、韓国人や日本人では人口の0.5-1%にも及ぶといわれています。一方、ファブリー病患者さんの場合、そのほとんどの方が腎不全、心不全、心筋梗塞や脳卒中などの症状を来たすため、早期治療が必要です。


2 研究成果の概要

ファブリー病の治療として用いられる酵素補充療法では、高頻度に血液中にアレルギーや治療効果を減弱させる阻害抗体が出現します。2種類の酵素製剤であるAgalsidase alpha (アガルシダーゼ アルファ:レプレガル™)、Agalsidase beta (アガルシダーゼ ベータ:ファブラザイム™)は、別々の会社から異なった方法で製造され、使用量も異なっていたために副作用の頻度や程度が十分に比較されていませんでした。また、これまでにもこれらの製剤使用時の血液中の阻害抗体を測定する方法はありましたが、結果を得るまでに一ヶ月以上かかり、また、ベッドサイドで迅速に測定できるキットがなかったため、個々の患者さんに対する副作用の迅速な把握が難しい状況でした。

そこで、本研究では、血液中の治療製剤に対する血液中の阻害抗体の量を迅速かつ簡易に測定することを目的として、イムノクロマト法を用いた迅速検査キットの開発に成功しました。この方法により、 血液1滴で15分以内にベッドサイドでも測定が可能になりました(図1及び図2参照)

また、本研究では、明治薬科大学など国内外の主要な研究者、医師、企業のご協力により、治療製剤であるファブラザイム、レプラガル、それぞれ、あるいは両者の治療を受けた29名のファブリー病の患者さん、および20名の健常者の血液中の阻害抗体を通常のELISA法にて調べました。同様の方法で新しく開発した迅速簡易イムノクロマトにて測定した結果、従来のELISA法とほぼ同様の結果が15分以内に判定でき、しかも0 -8段階で抗体量が判別可能でした。これまで、上記2製剤による阻害抗体の出現の仕方がかなり異なることが予想されていましたが、実際にはどちらも同様の出現率、反応性が認められました。

抗GLA抗体測定用イムノクロマトの必要性

抗GLA抗体測定用イムノクロマトの必要性

抗GLA抗体測定用イムノクロマトキット

抗GLA抗体測定用イムノクロマトキット

3 発見の意義

今回開発したイムノクロマト法により、 血液1滴で15分以内にベッドサイドでも測定が可能になりました。その結果、副作用の病態解明だけでなく、酵素補充療法に伴う有害免疫反応の発生を予測し、対策を立てることが期待されます。

参考文献

Nakano S, Tsukimura T, Togawa T, Ohashi T, Kobayashi M, Takayama K, Kobayashi Y, Abiko H, Satou M, Nakahata T, Warnock DG,Sakuraba H, Shibasaki F.
Rapid Immunochromatographic Detection of Serum Anti-α-Galactosidase A Antibodies in Fabry Patients after Enzyme Replacement Therapy.
PLoS One, 2015 Jun 17, 10(6):e0128351. doi: 10.1371/journal.pone.0128351

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