2014年3月6日
英国のオンライン科学誌「Nature Communications」に蛋白質代謝研究室の佐伯泰副参事研究員・田中啓二所長らの研究成果が発表されました。
(公財)東京都医学総合研究所 蛋白質代謝研究室の佐伯泰副参事研究員、田中啓二所長らは、理化学研究所 佐甲情報研究室の白燦基研究員らとの共同研究において、細胞内の巨大タンパク質分解酵素複合体「プロテアソーム※1」の細胞内動態を解析し、プロテアソームが細胞質で完成した後に核に運ばれることを明らかにしました。
本研究成果は、英国のオンライン科学誌「Nature Communications」(2014年3月6日付け)に掲載されました。
プロテアソームは、ユビキチン化※2されたタンパク質を選択的に分解する巨大な酵素複合体で、細胞内のタンパク質恒常性の維持に中心的な役割を果たしています(図1)。 近年、プロテアソーム機能の破綻が神経変性疾患などさまざまな難治性疾患を引き起こすことや、プロテアソーム阻害剤※3が血液がんに有効なことが明らかになっており、プロテアソームは基礎研究だけでなく臨床面からも注目されています。
プロテアソームは約66個のサブユニットタンパク質で形成されていますが、プロテアソームが細胞内のどこで完成するのか、完成したプロテアソームがどの程度存在するのか、あるいはどのように存在するのかなど、細胞内における動態はほとんど分かっていませんでした。
プロテアソームはユビキチン化されたタンパク質を分解する巨大な酵素複合体。
細胞内のタンパク質恒常性の維持に中心的な役割を果たしている。
共同研究グループは、蛍光タンパク質をプロテアソームに結合させた酵母細胞を作製し、蛍光のゆらぎを測定する蛍光相関分光法※4によって、生きた細胞内でプロテアソームの動態を解析しました(図2)。
左:蛍光タンパク質のGFPをプロテアソームに結合させた酵母細胞の蛍光顕微鏡像。Cは細胞質、 Nは核内。
右:プロテアソーム複合体の蛍光相関関数。
相関関数の解析からGFP単体は細胞内で一種類の動態(黒)を示すことに対して、大きく右に シフトしたプロテアソームの細胞質(赤)と核内(青)の相関関数からはそれぞれ二種類の 動態が示された。一種類目は完成したプロテアソームの自由拡散運動、二種類目は細胞小器官 または核内の転写因子とのそれぞれの相互作用による遅い拡散運動を示す。これらのことから、 細胞質のプロテアソームは何らかの細胞小器官と相互作用していること、核内のプロテアソームは 転写因子や染色体などの転写マシナリーと相互作用していることが分かった。
その結果、①プロテアソームのほぼ全てのサブユニットタンパク質は完成したプロテアソーム複合体に取り込まれていること、 ②完成したプロテアソームは安定に存在すること、 ③細胞質のプロテアソームの約半数は何らかの細胞小器官(ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体など)と相互作用していること、 ④核内では転写因子や染色体などの転写マシナリー※5と相互作用していることが明らかとなりました。また、細胞内のプロテアソームの濃度を測定した結果、細胞質では約200 nM、核質では約1μMでした。
さらに、細胞質核間輸送担体インポーティン※6の変異体などを用いて、核内にプロテアソームが運ばれない状況にして細胞質の解析を行った結果、これまで核内で形成されると考えられてきたプロテアソームは、実は細胞質で完成した後に核内に移行することが明らかになりました(図3)。
1.細胞質で完成したプロテアソームは速い拡散運動で細胞全体に広がる
2.さまざまな細胞質の細胞小器官と相互作用しながら拡散する。
3、4. 完成した後、核膜孔を通って核内まで運ばれる。
5.核内では転写マシナリーと相互作用している。
今回、共同研究グループは、出芽酵母のプロテアソームについて解析を行いました。その結果、核内では遺伝子の転写に関わっていることが示されました。今後、プロテアソームが細胞質でどの細胞小器官と相互作用しているか、細胞質および核内におけるプロテアソーム濃度のバランスがどのように維持されているかを解明していく予定です。将来的には、プロテアソームの細胞内動態を制御する新しいコンセプトのプロテアソーム調節剤の開発を目指します。