2026年1月9日
視覚病態プロジェクトの大橋 勉 客員研究員(大橋眼科院長)、行方 和彦 研究員、原田 高幸 プロジェクトリーダーらは「緑内障とアミロイドβの新たな関係を解明」した研究成果を、国際科学雑誌Scientific Reports に発表しました。
当研究所 視覚病態プロジェクトの大橋 勉 客員研究員(大橋眼科院長)、行方 和彦 研究員、原田 高幸 プロジェクトリーダーらは、緑内障患者の眼内液(前房水)におけるアミロイドβという神経毒性タンパク質に着目し、その量と緑内障の重症度との関係を解析しました。その結果、緑内障患者ではアミロイドβ濃度が有意に高く、網膜神経線維層の菲薄化と関連することが明らかになりました。
これらの知見は、緑内障が眼圧だけでなく神経変性の仕組みによって進行する可能性を示すものであり、アルツハイマー病と共通する病態メカニズムの存在を示唆しています。本研究は、視機能を守り、回復を目指す新たな治療戦略の創出につながる基盤的成果です。

緑内障は、網膜神経節細胞の変性と網膜神経線維層の菲薄化を特徴とする進行性の視神経変性疾患であり、眼圧上昇が主要な危険因子とされています。一方で、日本人では正常眼圧緑内障が多く、眼圧が正常範囲であっても視機能障害が進行する症例が存在し、眼圧非依存的な神経変性機構の関与が示唆されています。
アルツハイマー病では、神経毒性を有するアミロイドβ(Aβ)蛋白の異常蓄積が神経変性を引き起こすことが知られており、近年、アルツハイマー病と緑内障が共通の神経変性メカニズムを有する可能性が注目されています。しかし、眼内におけるAβ蛋白の役割、とくに緑内障との関連については十分に解明されていません。
本研究では、緑内障および落屑症候群[注1]患者における前房水中Aβ濃度を測定し、網膜神経線維層厚(RNFL厚)との関連を解析することで、Aβが緑内障の病態形成や進行に関与している可能性を検証することを目的としました。
白内障手術または緑内障手術を受けた計154例を対象とし、以下の4群に分類しました。
手術時に採取した前房水中のAβ1-40およびAβ1-42濃度をELISA法で測定し、光干渉断層計により評価したRNFL厚との相関を解析しました。
研究は、可溶性Aβが落屑症候群で増加し、緑内障の進展に伴って蓄積がさらに増強されることで、網膜・視神経変性が加速され得ることを臨床検体レベルで示した点に意義があります。前房水中に検出されたAβ濃度は、網膜神経節細胞死を誘導し得る濃度域にあり、Aβが単なる随伴指標ではなく、緑内障進行に能動的に関与する因子である可能性が示唆されました。
これらの結果は、緑内障とアルツハイマー病に共通する神経変性メカニズムの存在を支持するとともに、Aβを標的とした新たな神経保護・治療戦略の可能性を示すものです。今後は、前房水および硝子体を含めた包括的な分子解析を通じて、緑内障における神経変性機構の全体像解明と治療応用を目指します。