2026年3月4日
社会健康医学研究センター 心の健康ユニットの宮下光弘客員研究員と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の研究グループは「いじめを受けた経験が、思春期の心の不調につながるメカニズムの一端を解明 ―「終末糖化産物(AGEs)」が関与している可能性―」について国際学術誌Molecular Psychiatry に発表しました。
当研究所 社会健康医学研究センター 心の健康ユニットの宮下光弘客員研究員と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 行動医学研究部の成田瑞精神機能研究室長らの研究グループは、大規模思春期コホート研究である東京ティーンコホート(Tokyo Teen Cohort; TTC)のデータを用いて、いじめを受けた経験が、その後の精神症状(抑うつ症状や精神病体験)につながる過程において「糖化ストレス(ペントシジン)」が関与している可能性を明らかにしました。
本研究は、思春期の深刻な社会ストレスである「いじめ」が、その後の心の不調につながるメカニズムの一端を示したものであり、思春期の心の健康を理解し、精神疾患の予防につなげる上で重要な知見と考えられます。
本研究成果は、【2026年2月27日】に国際学術誌『Molecular Psychiatry』(電子版)に掲載されました。

思春期のいじめ被害の経験は、その後の人生における心身の健康に対して、深刻かつ長期的な悪影響を及ぼすことが知られています。しかし、いじめ被害がどのような仕組みで心の不調につながるのかについては、十分に解明されていませんでした。
近年、慢性的なストレスが体内で炎症や代謝の変化を引き起こし、心身の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されています。その一つが、糖とタンパク質や脂質などが反応して生じる終末糖化産物(Advanced Glycation End)-products; AGEs)1)であり、ペントシジンは代表的なAGEとして知られています。
私たちは、思春期のいじめ被害の経験が、その後の心の不調につながるプロセスにおいて、ペントシジンが関与しているのか、また、関与しているとすればどの程度その関連を説明できるのかという点に着目し、検証を行いました。
本研究では、思春期の子どもたちを対象とした大規模コホート研究2)である「東京ティーンコホート(Tokyo Teen Cohort; TTC)」の参加者を対象に、12歳時点のいじめ被害の経験、14歳時点の尿中ペントシジン濃度、16歳時点での抑うつ症状3)や精神病体験4)といった心の不調に関するデータを用いました。
異なる時点で収集された複数のデータを用い、さらに、原因と結果の関係を統計的に詳しく検討できる因果媒介分析(Causal Mediation Analysis; CMA)5)という手法を用いることで、いじめ被害とその後の心の不調との関連において、ペントシジンがどの程度そのつながりを説明できるのかを検討しました。
その結果、いじめ被害を経験した子どもでは、その後にペントシジン濃度が高くなり、また、ペントシジン濃度の上昇が抑うつ症状や精神病体験の増加と関連していることが分かりました。さらに解析の結果、いじめ被害と精神症状との関連のうち、抑うつ症状については約19%、精神病体験については約28%が、ペントシジンを介して説明される可能性が示されました。男女別に解析した場合でも同様の結果が得られており、これらの関連は性別に限定されるものではないことも確認されました。
本研究は、いじめという思春期の社会ストレスが、ペントシジンの増加という体内の生物学的な変化を伴って、その後の心の不調につながる可能性を示した点に意義があります。
思春期は心身が大きく変化する時期であり、この時期のいじめ被害を防ぐことは、将来の心の健康を育むうえで重要です。また、いじめ被害を経験した場合であっても、ペントシジンのような生物学的指標を活用することで、その後の心の不調リスクを早期に把握し、より効果的な予防や支援につなげられる可能性が期待されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)(RISTEX、FOREST、COI-NEXT)、およびムーンショット型研究開発事業の支援を受けて実施されました。