2026年2月16日
カルパイングループの久恒智博主席研究員らは、「カルパイン3の遺伝子変異が肢帯性筋ジストロフィーR1(LGMDR1)を引き起こす2つの独立したメカニズムを解明」について、米国科学雑誌Journal of Biological Chemistry に発表しました。
当研究所 カルパイングループの久恒智博 主席研究員、秦勝志 グループリーダー、小野弥子 プロジェクトリーダー(当時)らは、カルパイン[1]3の酵素活性領域以外にみつかる変異が、①オリゴマー形成不全による活性低下、および ②タイチン[2]との相互作用減弱による細胞内局在異常という、2つの独立した経路でLGMDR1[3]を引き起こすことを明らかにしました。本研究の知見は、将来的なLGMDR1の根本的な治療法開発へと繋がることが期待されます。
本成果は、2026年2月11日付け発行の米国科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」のオンライン版に掲載されました。

肢帯型筋ジストロフィーR1(LGMDR)は、体幹に近い筋肉(四肢近位筋)の筋力が徐々に低下する難病です。LGMDR1の責任遺伝子としてカルシウム依存性システインプロテアーゼの「カルパイン3」が同定されて以来、その生化学的特徴が研究されてきました。しかし、変異が特定の箇所に集中(ホットスポット[6]が存在)しないため、なぜプロテアーゼ活性領域以外の変異が同様の疾患を引き起こすのか、その詳細は謎に包まれていました。
今回研究グループは、カルパイン3の末端にあるpenta-EF (PEF) 領域でみつかる遺伝子変異に着目して解析を行いました。その結果、以下の2つの独立した発症ルートがあることを突き止めました。
PEF領域のLGMDR1変異体の一部ではカルパイン3同士の結合(オリゴマー形成)が阻害され、その結果としてプロテアーゼとしての働き(酵素活性)が低下することを発見しました。
また、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてLGMDR1変異体をマウスの前脛骨筋に発現させたところ、複数のLGMDR1変異体はタイチンとの相互作用が弱まり、筋サルコメアのMラインという正しい場所に留まれない「局在異常」を起こしました。これらの筋細胞での細胞内局在の異常は、オリゴマー形成とは無関係でした。さらに研究グループは、野生型カルパイン3とのオリゴマー形成をさせることで、LGMDR1変異体の異常な細胞内局在を正常化することに成功しました。
本研究によって、カルパイン3のPEF領域にみつかるLGMDR1変異による発症機構には、「オリゴマー形成不全によるカルパイン3の酵素活性の低下」と、「オリゴマー形成とは無関係な細胞内局在の異常」という2つの独立した経路が存在することがわかりました。
今後、他の領域のLGMDR1変異とオリゴマー形成との関連も明らかにすることで、LGMDR1の発症メカニズムの理解がさらに深まることが期待されます。またLGMDR1変異体を発現する筋サルコメアの構造を電子顕微鏡レベルで調べることで、カルパイン3が筋サルコメアの構造維持にどのように関与するのかを明らかにできると考えられます。今回、野生型とのオリゴマー形成によって変異体の局在異常を正常化できることを世界で初めて示しました。この成果は、AAVによるカルパイン3の発現治療の妥当性を支持するものであり、今後の治療法開発に向けた重要な知見となります。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:久恒智博、Grant Number 22K07014、25K10312)、科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:小野弥子、Grant Number 22K06156)の研究費支援を受けて行われました。