2015年3月31日
米国科学アカデミー紀要オンライン版に、吉田雪子主席研究員、佐伯泰副参事研究員、田中啓二所長らの研究成果が発表されました。
(公財)東京都医学総合研究所の吉田雪子主任研究員、佐伯泰副参事研究員、田中啓二所長らは、さまざまな生命現象の制御と恒常性の維持に必須な「たんぱく質のユビキチン化」を効率よく検出し、標的たんぱく質を見つけ出す方法を開発しました。
ユビキチンは全ての真核生物に存在する76アミノ酸からなる小さなたんぱく質です。多くの場合、ユビキチンが鎖状に連なる「ユビキチン鎖」が形成され、細胞内で役割を終えた不要なたんぱく質や異常たんぱく質を速やかに消去させる「たんぱく質分解の目印」となります。ユビキチン鎖はたんぱく質分解の目印となるばかりではなく、細胞内の情報伝達系・損傷DNAの修復や細胞表層にある膜たんぱく質の細胞内への取り込みの信号として働くなど、多様な生命現象の制御に関わることも分かってきています。「たんぱく質のユビキチン化」に異常が生じると、神経変性疾患やがんなどの原因となることが知られています。
どのたんぱく質にユビキチン鎖を付けるのか、その選択性を決めるのはヒトではおよそ600種類ある「ユビキチンリガーゼ(連結酵素)」ですが、その標的分子(基質)が分かっているユビキチンリガーゼはごく一部に過ぎません。ユビキチンリガーゼの基質を網羅的かつ高感度に探索できる技術の開発は、広範な生命現象の制御に関わるユビキチン化を理解する上でも重要であると考えられます。今回新たに開発したユビキチン鎖結合プローブTR-TUBEを細胞に発現させることで、これまで機能のわかっていなかったユビキチンリガーゼの標的分子を容易に見つけ出すことができるようになりました。この同定法を多くの研究者に利用してもらうことにより、新たな生命現象の理解、さらには、さまざまな疾患の発症機構の解明につながることが期待されます。
この研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) 米国科学アカデミー紀要」の3月30日午後3時(米国東部時間)付オンライン版で発表され、さらに4月発行予定の「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」誌に掲載されます。
ユビキチン※1は全ての真核生物に存在する76アミノ酸からなる小さなたんぱく質です。ユビキチン化活性化酵素(E1)・ユビキチン結合酵素(E2)・ユビキチンリガーゼ(連結酵素:E3)の3種類の酵素群の働きにより、ユビキチンは標的たんぱく質(基質)に共有結合(アミド結合)し、多くの場合、ユビキチンにさらにユビキチンが鎖状に連なる「ユビキチン鎖」が形成されます。ユビキチン鎖を目印としたプロテアソームに※2よる選択的分解系「ユビキチン−プロテアソーム系」は、細胞内で役割を終えた不要なたんぱく質や異常たんぱく質を速やかに消去させる役割を担っています。このたんぱく質分解系は、正しい細胞周期の進行や細胞内の恒常性の維持に寄与しているため、この系に異常が生じると、神経変性疾患※3やがんなどの原因となることが知られています。また、最近では、ユビキチン鎖は細胞内の情報伝達系・損傷DNAの修復や細胞表層にある膜たんぱく質の細胞内への取り込みの信号として働くことなども次々と明らかとなり、非常に多様な生命現象の制御に関わることが分かってきています。
どのたんぱく質にユビキチン鎖を付けるのかその選択性を決めるのは、ヒトではおよそ600種類あるユビキチンリガーゼ(E3)ですが、その標的分子(基質)が分かっているユビキチンリガーゼはごく一部に過ぎません。また、基質が判明しているものであっても、新たな基質がみつかる可能性もあります。ユビキチンリガーゼの基質を網羅的かつ高感度に探索できる技術の開発は、広範な生命現象の制御に関わるユビキチン化を理解する上でも重要であると考えられます。これまで、さまざまな方法が試されてきましたが、決め手となる方法はありませんでした。今回開発した「ユビキチン化基質の効率的な同定法」はそのブレークスルーとなるプロトコールです。
ユビキチン化たんぱく質は多くの場合、プロテアソームにより分解されてしまうために細胞内に存在量が少ないか、また、分解を受けたい場合でも、細胞内に存在する脱ユビキチン化酵素※4によりユビキチン鎖がはずされてしまうため、ユビキチン鎖が付いた状態で細胞内に存在する量は極わずかです。そのため、一般的にプロテアソームや脱ユビキチン化酵素の阻害剤で細胞を処理しますが、過剰発現させたユビキチンリガーゼの基質を優先的に安定に保つことは困難でした。今回開発したTR-TUBE※5というユビキチン鎖結合プローブを目的のユビキチンリガーゼと共に細胞内に発現させる方法は、TR-TUBEが脱ユビキチン化酵素やプロテアソームから基質についたユビキチン鎖を保護するため、ユビキチン鎖が結合したままの基質を優先的に細胞内に保つことができます。さらに、このプローブを利用して、ユビキチン鎖が結合した基質を濃縮することができました。そして、最近開発された、質量分析をもちいたプロテオーム解析※6を行う際に生じる特異的な配列を認識するdiGly抗体※7と組み合わせることにより、効率よく目的とする基質の同定を行うことが可能となりました。
本研究から、ユビキチンリガーゼの基質の効率的な同定と、活性の簡便な検出が可能になりました。私達の身体は約2万種類のたんぱく質から成り立っていますが、そのおよそ30%のたんぱく質がユビキチン化されるといわれています。600種類あるユビキチンリガーゼがどのたんぱく質に働くのか、その大部分は解明されていません。今回開発した方法が多くの研究者に利用され、その酵素−基質の対応が明らかになっていくことにより、新たな生命現象の理解や未解明の疾患の発症機構の解明に繋がることを期待します。