東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2015年

TOPICS 2015

2015年8月1日

米国科学雑誌「The Journal of Immunology」にゲノム動態プロジェクトの宮武研究室長、井口研究員ら研究成果が発表されました。

BTB-ZFタンパクであるZNF131は分化段階および成熟T細胞の細胞増殖を制御する

研究の背景と経緯

免疫細胞の1つであるT細胞は外来の異物(抗原)を細胞表面にあるT細胞受容体を介して認識し、外来の異物からからだを守る大切な細胞集団です。1つ1つのT細胞はそれぞれ異なるT細胞受容体を持つことにより、様々な異物がからだの中に侵入してきても対応できるようになっています。異物を認識したT細胞は自ら増殖するとともに、ウイルス感染細胞やがん細胞を直接殺したり、他の免疫細胞を活性化することにより異物からからだを守っています。

外来の異物を効率よく排除するには、免疫細胞の機能だけでなく免疫細胞の数自体も重要な要素の1つです。また、免疫細胞は特定の臓器を形成することなく日々全身を移動しています。どのようにして免疫細胞の数を維持しているのか、外来の異物が侵入したときどのようにして対抗する免疫細胞の数を増やしているのかなど、免疫細胞の分化や機能と増殖の関連についてはいまだ未知の部分が存在しています。

本研究は、BTB-ZFファミリーに属するタンパク質、ZNF131が免疫細胞の一種であるT細胞の増殖に密接に関与していることを明らかにしたものです。

研究の概要

ZNF131のT細胞における機能を明らかにするために、ZNF131欠損マウスを作製し表現型を解析しました。

T細胞分化の初期における欠損では、胸腺におけるT細胞の分化が阻害されていただけでなく、pre-T細胞受容体刺激依存的な細胞増殖も阻害されていました。また、T細胞分化の後期における欠損ではT細胞分化に異常はありませんでした。しかし、T細胞受容体刺激依存的な細胞増殖は阻害されていました。さらに、遺伝子発現解析を行なった結果、細胞周期調節因子の1つであるp21の発現がZNF131欠損T細胞において上昇していました。ZNF131では、p21の発現を調節することにより細胞増殖を制御しているメカニズムの存在が明らかになりました。

今後の展望

外来の異物を効率よく排除するためには、免疫細胞がどれくらい増殖し細胞数を増やせるのかも重要な要素の1つです。免疫応答時や分化の途中で、どのように仕組みにより免疫細胞の増殖が制御されているのか、より詳細なメカニズムの解明を目指していく予定です。将来的には、再生医療などにおける免疫細胞の絶対数の確保という問題に応用できる可能性があるのではないかと考えています。

図 ZNF131によるT細胞受容体刺激依存的な細胞増殖制御の仕組み

図 ZNF131によるT細胞受容体刺激依存的な細胞増殖制御の仕組み

ZNF131存在下では、p21の発現を抑制することにより正常に細胞増殖が行なわれる(左)。

ZNF131非存在下では、p21の発現が抑制されず正常な細胞増殖が抑制される(右)。


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