東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2015年

TOPICS 2015

2015年12月17日

国際科学雑誌「Frontiers in Neuroscience」に丸山千秋主席研究員、岡戸晴生副参事研究員らの論文が発表されました。

発生期大脳皮質における神経細胞移動の制御機構について

この成果は、国際科学雑誌「Frontiers in Neuroscience」オンライン版に12月17日掲載されました(http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnins.2015.00447/abstractより free download可)。

本総説は、Frontiers in Neuroscience 誌の特集“Mechanisms of Neuronal Migration during Corticogenesis”14編のうちの1編である。

なお本特集は、丸山千秋主席研究員、前田信明副参事研究員(以上都医学研)、仲嶋一範教授(慶應大)、Alessandra Pierani 博士(ジャック・モノー研究所)の4名で編集した。

1. 本総説の背景

哺乳類の大脳新皮質は独特な6層構造を示し、各層には特徴的なニューロンが整然と配置されている。このような層構造の乱れは、てんかんや自閉症、あるいは統合失調症など、様々な精神・神経疾患の原因になると考えられている。従って脳ができる際にこの層構造がどのようなメカニズムで出来てくるのかを知ることはこれらの精神疾患の病態理解の上でも重要である。胎児期の大脳皮質形成過程において、新生ニューロンは誕生後、大きく4つのパートに分けられる“旅”を経験することによって、このような6層構造を構築する。すなわち、ニューロンへの分化、多極性から双極性への形態変化、ロコモーション、移動の終了の4段階である。本英文総説では、それぞれの段階に寄与する制御因子とその機能及び作用メカニズムについて、最新のデータも交えて解説した。わかりやすく詳細に解説しているので、入門者から専門家まで、当分野に関心を持つ研究者には有用な情報源になると確信している。

2. 本総説の概要

ヒトの脳は大脳新皮質が発達しており、記憶、認知、学習などの高次脳機能や、精神機能を司る。大脳新皮質の特徴的な6層構造はマウスからヒトまでのすべての哺乳類に見られるが、鳥類や爬虫類脳には見られないことから、脳進化の過程で、高次脳機能獲得の構造的基盤になった可能性がある。ではこの大脳新皮質は胎児期の脳形成過程でどのようなメカニズムで出来てくるのだろうか?マウス脳をモデル系として哺乳類大脳皮質形成過程の神経細胞移動を制御する分子、及びそのメカニズム解明が、ここ20年でかなり進んだ。新たに生まれた神経細胞は脳の深部から表層部へ向かって次々と遊走し、最終目的地にたどり着く。その間には、神経前駆細胞からの分化、多極性移動とサブプレート層への移動、双極性細胞への変換と移動モードのロコモーションへの変換、そして移動終了という4つの段階が存在する。本総説では、それぞれのステップで細胞内外で起こっているイベントを、分子やシグナルカスケードの同定につながった研究及びそれらに関連する最新のデータを解説した。またそれらの異常がどのような脳疾患と関わっているかについても触れ、最後に、大脳皮質の進化の過程にこの新生神経細胞の移動モードの変換がどのように関わったかについての考察も加えた。本総説により、大脳新皮質の神経細胞が生まれてから移動終了までの過程を、全体を通して知り、脳疾患や進化に対する理解を深めることができると考えている。

参考図

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