HOMETopics 2018年

TOPICS 2018

2018年4月19日

米国科学誌「Science」に神経回路形成プロジェクトの丸山千秋副参事研究員と前田信明プロジェクトリーダーらの研究チームは「胎児期に脳ができる仕組みに新たな発見〜最も早く生まれる神経細胞からのシナプス伝達が大脳新皮質形成を制御〜」について発表しました。

胎児期に脳ができる仕組みに新たな発見
〜最も早く生まれる神経細胞からのシナプス伝達が大脳新皮質形成を制御〜

(公財)東京都医学総合研究所・神経回路形成プロジェクトの丸山千秋副参事研究員と前田信明プロジェクトリーダーらの研究チームは、胎児期に脳ができる仕組みの新たなメカニズムを明らかにしました。思考や言語機能などを司る大脳新皮質は哺乳類でのみ発達し、6層の構造内に神経細胞が精緻に配置されています。この構造の乱れは自閉症や統合失調症などの精神疾患の発症につながることがわかっています。大脳新皮質の6層構造は胎児期に脳深部で生まれた神経細胞が脳表面に向かって次々と移動していくことによって形成されます。研究チームはこの「移動」を促す信号が送られる仕組みを世界で初めて解明しました。「サブプレートニューロン」は、大脳新皮質で最も早く誕生し、脳が出来上がると消失する一過的な神経細胞ですが、その機能に関しては不明な点も多く残されていました。今回の研究で、サブプレートニューロンがその後次々と生まれる神経細胞と一過性のシナプスを形成し、その最終目的地への移動を促す信号を送っていることが明らかになりました。これまで、シナプスは成熟した神経細胞同士の信号の伝達に使われるとされていた常識を覆す発見で、今後、自閉症や統合失調症といった脳の発達に関連する疾患の原因解明につながる可能性が出てきました。

研究成果は、2018年4月19日午後2時(米国東時間)に米国科学誌「Science」にオンライン掲載されました。

<論文情報>
Synaptic transmission from subplate neurons controls radial migration of neocortical neurons
「サブプレートニューロンからのシナプス伝達が大脳新皮質の放射状神経細胞移動を制御する」
Ohtaka-Maruyama C, Okamoto M, Endo K, Oshima M, Kaneko N, Yura K, Okado H, Miyata T, Maeda N
<発表雑誌>
米国科学誌「Science」(2018年4月19日 オンライン掲載)
Science, 20 Apr 2018:Vol. 360, Issue 6386, pp. 313-317
DOI: 10.1126/science.aar2866

1. 研究の背景

思考や言語機能などを司る大脳の部位は、哺乳類では大脳新皮質(*1)と呼ばれ、6層の神経細胞層からできています。ヒトではこの層構造の形成過程に不具合があると、脳奇形や様々な精神・神経疾患の原因になります。従って、層形成のメカニズムを知ることはこれら疾患の理解や治療への応用に欠かせません。

胎児期に脳ができる際、神経細胞は脳の深部で誕生し表層に向かって長い距離を移動します。その際、「多極性移動」と「ロコモーション」と呼ばれる二種類の移動様式を使って移動し、最終的に多数の神経細胞が精緻に配置された6層構造ができます(参考図)。このような神経細胞の移動過程には様々な遺伝子が関与し、その遺伝子変異が自閉症や統合失調症等の精神疾患と関連していることが明らかになってきています。しかしながら、二種類の移動様式が切り替わるタイミングや場所、さらに、その制御メカニズムは不明でした。

2. 研究の概要

胎児期に大脳新皮質ができる過程で、大脳深部にある神経前駆細胞は、分裂を繰り返して多数の神経細胞を生み出していきます。サブプレートニューロンは大脳新皮質で最初に生まれ、成熟する神経細胞であり、サブプレート層と呼ばれる層を形成します。その後に次々と生まれる神経細胞は、初め多数の突起を伸ばした星型(多極性)の形態をとり、「多極性移動」と呼ばれるゆっくりした方向性の定まらない移動様式を示します。この多極性細胞は、ある時、突然、二本の突起のみを伸ばした紡錘型の形態に変化し、脳表面に向かって「ロコモーション」と呼ばれる移動モードで素早く移動するようになります。この一連の移動過程は放射状神経細胞移動(*2)と呼ばれますが、後から生まれる神経細胞が次々とこの移動を繰り返すことで、最終的に多くの神経細胞が見事に並んだ6層構造が出来上がります。

私たちはマウス胎仔の大脳を培養してこの移動の様子を詳しく観察し、移動様式の切り替えがサブプレート層で起こっていることを見出しました。このことから移動様式の切り替えにサブプレートニューロンが寄与している可能性を考え、移動神経細胞とサブプレートニューロンの相互作用をさらに詳細に観察しました。その結果、サブプレートニューロンが軸索を活発に伸ばし、サブプレート層直下で、多極性細胞と一過性のシナプス(*3)を形成することを見出しました。そこで、サブプレートニューロンのシナプス前部の活動を抑えたところ、移動神経細胞が多極性の段階で留まり、ロコモーションへの切り替えが障害されました。逆に、サブプレートニューロンがシナプスで放出していると予想されるグルタミン酸を多極性細胞の周りに局所的に投与すると、ロコモーションへの切り替えが促進されました。また、グルタミン酸受容体(NR1)遺伝子を移動神経細胞特異的に欠失させ、シナプス後部の活動を阻害すると、移動が多極性の段階で停止することも明らかになりました。これらの結果から、生まれたばかりの神経細胞がその移動様式を切り替える場所やタイミングは、サブプレートニューロンが新生神経細胞上に形成するグルタミン酸作動性シナプスによって制御されていることがわかりました。

サブプレートニューロンは、生後は消失する一過的な細胞群で、脳ができる際に、大脳新皮質と間脳の間の神経連絡の形成に寄与すると考えられていましたが、その神経細胞移動制御における機能は謎に包まれていました。今回の発見で、サブプレートニューロンが積極的に後から生まれるニューロンたちへ移動を促す信号を送っていることが初めて明らかになりました。

3. 今後の展望

本研究は、シナプスは成熟した神経細胞同士の信号の伝達に使われるというこれまでの常識を覆す発見で、胎児期の脳内で、シナプス伝達が幼若な神経細胞の形態変化や移動様式の変換を誘導することを初めて見出したものです。

研究成果は、これまで不明だった自閉症や統合失調症の病因解明につながるだけでなく、ヒトの脳はなぜこのような複雑な神経活動が可能になったのかといった脳進化の謎に近づける可能性もあると考えています。

図

生まれたばかりの神経細胞は、方向性の定まらない多極性移動をします。その後より早く移動できる移動モード(ロコモーション)に変換します。この変換が障害されると神経細胞層の構造が乱れ、様々な神経疾患を発症します。今回の研究で、サブプレートニューロンは後から生まれる神経細胞にシナプスを介して信号を送り、移動様式の変換を促すことが初めて明らかになりました。

用語説明

*1 : 大脳新皮質
哺乳類の大脳の広い範囲に見られる6層の神経細胞層からなる領域。進化的に新しく獲得したと考えられることから新皮質と呼ばれる。これに対し、海馬や扁桃体などの領域は非哺乳類脳でも相当する領域があり、古皮質と呼ばれることがある。
*2 : 放射状神経細胞移動
脳発生期に新生神経細胞が脳室帯から脳表面に向かって移動することをいう。主に興奮性神経細胞の移動様式。
*3 : シナプス
神経細胞間、あるいは神経細胞と筋線維や他種の細胞との間に形成される接着構造であり、神経細胞からのシグナルが伝達される。シグナルを伝える細胞をシナプス前細胞、シグナルを受け取る細胞をシナプス後細胞という。中枢神経で多くを占める化学シナプスでは、シナプス前細胞の神経終末から、グルタミン酸などの神経伝達物質が放出され、これをシナプス後細胞側が受容することでシグナルが伝わる。

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