HOMETopics 2018年

TOPICS 2018

2018年6月25日

運動障害プロジェクトの本多武尊主席研究員らは米国科学雑誌「PNAS」に「正しい運動を実行するための運動学習の仕組みの解明 〜意識的な運動のための学習と無意識的な運動のための学習〜」について発表しました。

正しい運動を実行するための運動学習の仕組みの解明
〜意識的な運動のための学習と無意識的な運動のための学習〜

(公財)東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト 本多武尊主席研究員は、理化学研究所 伊藤正男栄誉研究員・名誉研究員、国立精神・神経医療研究センター 水澤英洋理事長・総長、のぞみ病院 高次脳機能研究所 永雄総一所長、東京医科歯科大学 石川欽也教授、横田隆徳教授らとの共同研究により、正しい運動を実行するための運動学習のメカニズムを明らかにしました。

これまでは、1つの運動学習で正しい運動を実行できていると考えられてきましたが、本研究で、「意識的に正しい運動を実行するための学習」と「無意識的に正しい運動を簡単に実行するための学習」の2つの学習が必要であることを明らかにしました。

研究成果は、2018年6月25日午後3時(米国東部時間)に米国科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (PNAS)』にオンライン掲載されました。

<論文情報>
Tandem Internal Models Execute Motor Learning in the Cerebellum
「混成内部モデルは小脳で運動学習を実行する」
<発表雑誌>
米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (PNAS)」
(2018年6月25日 オンライン掲載)
PNAS June 25, 2018. 201716489;published ahead of print June 25, 2018.
https://doi.org/10.1073/pnas.1716489115

1. 研究の背景

今まで、日々の生活の中で、小脳による1つの学習によって精度の高い運動を実現していると考えられてきました。そして、小脳は運動の実行方法を学習しているのか、それとも、運動の実行結果から学習しているのかについて、およそ30年もの間、研究者の意見がわかれていました。

2. 研究の概要

私たちは、運動の実行方法を学習するためには正しい運動をすることが必要であり、運動の実行結果から学習するためには、間違った運動でも自らの運動の結果を見ることが必要であると考えました。そこで、視界を右へずらしてしまうプリズムレンズをかけた被験者に、ディスプレイに映し出されるターゲットをタッチすることを繰り返し行ってもらいました。視界が右へとずれてしまうため、最初はターゲットをタッチできず、ターゲットから右の方へ離れたところをタッチしてしまいますが、学習が進むとターゲットを正確にタッチできるようになります。この課題によって、ターゲットにタッチすることで起こる学習と、ターゲットにタッチできなくても起こる隠れた学習の2つの学習を発見しました。その実験結果を踏まえて、その2つの学習の理論的枠組みを構築し、簡単な実験式を提案しました。そして、運動の実行結果から学習することで意識的に正しい運動を可能とし、正しい運動を行うことで運動の実行方法を学習でき、何も考えなくとも無意識的に精度の高い正しい運動を簡単に行えるようになることが示されました。

さらに、疾患による小脳へのダメージによって、正しい運動が全くできない(運動の実行結果からの学習ができない)ケースと、集中しないと正しい運動ができない(運動の実行方法の学習ができない)ケースを予測しました。実際に脊髄小脳変性症患者をそれら2つのケースに分けることができ、その予測が正しいことが示されました。

参考図

参考図

右に視界がずれるプリズムレンズをかけたとき、ターゲットにタッチできず、ターゲットから右の方へ離れたところをタッチしてしまいます。しかし、何度もターゲットをタッチしようと腕の運動を繰り返していくと、間違った運動の実行結果から学習し、意識的に正しい運動ができるようになります。しかし、一生懸命に意識してターゲットをタッチしないと精度良くタッチできません。この意識的な正しい運動を何度も繰り返していくと、正しい運動の実行方法を学習していき、慣れていきます。その結果、何も考えずに無意識的に正しい運動ができるようになります。

3. 今後の展望

この研究を基礎として、新しい人工知能(AI)の開発や制御が難しい人工筋肉などの駆動装置の新たな制御システムの開発に貢献が期待されます。医療分野では、小脳機能の検査ばかりでなく、小脳疾患に対しては小脳機能向上のためのリハビリテーション法の開発、小脳以外の機能を使ったリハビリテーション法の開発、または、脳梗塞や認知症などの小脳以外の脳部位にダメージがあるケースには、小脳で機能補正するようなリハビリテーション法の開発、そして、それらリハビリテーションの効果判定法の開発など多くの場面での貢献が期待されます。さらに、リハビリテーション同様、効率的な運動学習を考えたスポーツトレーニングへの応用も期待されます。以上のような分野での応用を考え、運動学習における短期的な学習記憶が長期的な学習記憶へと変わるメカニズムの解明へと研究を進めていきたいと考えています。


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