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平成27年度 都医学研夏のセミナー 基礎・技術コース「神経系への遺伝子導入」公開講座

CRISPR guide RNA発現ユニット多重連結法の開発と供給
〜多数同時切断、off-targetの解決、knock-in,アデノベクターへの応用の可能性〜

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演者 齋藤 洋介(徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター 教授)
会場 東京都医学総合研究所 2階講堂
日時 平成27年7月15日(水) 16:00 ~ 17:00
世話人 岡戸 晴生 副参事研究員(神経細胞分化プロジェクトリーダー) 
参加自由 詳細は下記問合せ先まで
お問い合わせ 研究推進課 普及広報係
電話(03)5316-3109

講演要旨

CRISPR//Cas9システムではCas9酵素だけでなくguide RNA (gRNA) の導入法が重要です。異なるguide RNAを発現する数個のプラズミドのco-transfectionで数個の遺伝子を同時にノックアウトできることが報告されています。しかし個々の細胞レベルで考えると、transfectionでは一つの細胞に複数の異なるgRNA発現プラズミドの全てが導入されている確率は、数が増えれば幾何級数的に減少します。また1つの細胞へ導入されている相異なるgRNA個数はばらばらで、あるgRNAは多数入り、別のgRNRは全く入っていません。この問題はgRNAのtransfectionに限らず、複数同時発現における本質的な問題と考えられます。もし全ての発現ユニットを1コピーずつプラズミドが作製できればこの問題は解決されると考えられますが、2個を超えるU6-gRNA発現ユニットをもつplasmidの作製は、ユニット間で相同組換えが大腸菌内で起き欠失してしまうため非常に難しく、それを安定かつ大量に作製することはこれまで不可能でした。

私達はラムダファージのin vitroパッケージングなどいくつかの工夫により相同組換えの問題を解決し、4個あるいは8個の異なるgRNA発現ユニット、Cas9/nickCas9およびknock-inに必要なdonor DNAからなる「多重gRNA発現-(nick)Cas9-donor DNA断片」を安定かつ大量に調製する方法を確立しました(特許出願済)。この作製法は技術的には特殊ではありますが、一旦確立されれば通常のプラズミド断片の作製と大差ない労力で次々と作製することが可能です。

本法を用いると一番切断効率が高いgRNAを選択する必要はなくなります(候補全てを同時に用いればよい)。多数標的の同時 knock-outや、より確実な切断はguideを多くできればより効果的ではないかと思われます。またDNAをゲノムとするウイルスの確実な破壊にも有用かと考えられます。特にCas9変異型を用いて標的近傍の両鎖にnickをいれるoff-targetの解決法では、1カ所の切断に2つのguide RNAが必要であり、また切断してもend-joiningで元に戻ってしまうのを防ぐためには2カ所の同時切断が有効です。この両者を同時に行うには4つのgRNAを1つの細胞内で同時に発現させる必要があります。従って同時発現ユニットの数は少なくとも4個が望ましいと考えています。さらにdonor DNAを組み込み、off-targetのない効率的なknock-inができるかもしれません。またこの4連ユニットをさらに2個連結した8ユニット連結の安定調製にも成功しています。8連ユニットができれば切断Cas9の必要がなくなり、ほとんどがnickCas9で行えることになるかもしれません。一方この技術により慈恵医大・鐘ヶ江裕美博士は、多数のgRNA発現ユニットの同時発現(現在6個に成功しています)、およびCas9/nickCas9を高発現する安定なアデノウイルスベクターの作製に成功しており、in vivoの実験への応用も視野にいれています。多重連結法は色々な応用が考えられる基礎技術です。

現在のところこの方法は開発されたばかりで、Cas9が利用されている様々な場面において現在行われている方法より優れているか否かはそれぞれの分野の研究者に実際に使っていただいて検討する必要があります。そこで当研究室では、そのまま実験に用いるのに充分量(数百μg)のDNAを共同研究ベースで受託作製供給を行うため専任の研究補助員を配置し、様々な分野の研究者との共同研究を募集しております。本セミナーではgRNA多重発現法の紹介と、その応用の可能性および供給について論じたいと思います。

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