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てんかん

2.てんかんの原因の背景

てんかんとは?

てんかんは結果として神経細胞の過剰な興奮によって引き起こされる病態ですが、そのようになってしまうには、その神経細胞自体に原因がある場合や、神経細胞に過剰な興奮を誘発してしまう周囲の細胞などに原因がある場合など、いろいろ考えられます。つまり、てんかんの原因は一つではありません。

もともと神経細胞には、大きく分けて、興奮性の伝達の役割を担当する興奮性神経細胞と、興奮性神経細胞を抑制性に制御する抑制性神経細胞があり、お互いにバランスをとって情報の伝達を行なっています。また、神経細胞の周囲にはグリア細胞という神経細胞の機能維持や神経伝達物質(ニューロトランスミッター)の産生や再生に関与している重要な細胞もあります。これらの細胞に何らかの障害が引き起こされ、全体のバランスが破綻することにより、てんかんは発症すると考えられます(図4)。

図4. 神経細胞の興奮と抑制のバランス

図4. 神経細胞の興奮と抑制のバランス

現在、必ずしもその全貌が解明されたわけでもありませんが、今日に至るまでの診療や研究の積み重ねによっていろいろなことが判ってきました。ここでは、てんかんの原因やそれに関与していると考えられる脳の病変などについて、いくつかの視点から説明します。


特発性てんかんの原因の候補

特発性てんかんは、脳そのものに「病変」が見られない原因不明のてんかんである、と前回のチャプターで説明しました。しかし、特発性と言われていた疾患でも、病態に関係している遺伝子異常などが明らかとなってきました。

(1)イオンチャンネルとてんかん

最近、比較的予後が良い一部の家族性てんかんの責任遺伝子がイオンチャンネルの遺伝子異常であることが判ってきました。

イオンチャンネルとは、神経細胞の活動を制御する細胞膜に存在するスイッチのようなもので、ナトリウムイオン(Na+)チャンネル、カリウムイオン(K+)チャンネル、カルシウムイオン(Ca2+)チャンネルが知られています(図5)。また、それらチャンネルを作りだす遺伝子の場所(座位)も次第に解明されてきています。そして、それらのチャンネルの遺伝子異常が、てんかんを引き起こすいくつかの疾患に存在していることが明らかとなってきました。

図5. イオンチャンネルとレセプター

図5. イオンチャンネルとレセプター

カリウムイオンチャンネルの異常では、常染色体優性遺伝形式をとる生後まもなくよりけいれんを引き起こす良性家族性新生児けいれんという病態になることが知られています。ほとんどは生後数週間で自然に軽快しますが、成長してからてんかんになってしまうことがしばしばあります。ナトリウムイオンチャンネルの異常は、全般てんかん熱性けいれんプラス乳児重症ミオクロニーてんかんで認められることが知られています。カルシウムイオンチャンネルの異常は、発作性失調症若年性ミオクロニーてんかんなどで最近見い出されて、疾病の発症との関係が研究されています。

(2)レセプターとてんかん

神経細胞(A)から別の神経細胞(B)への指令は、Aが放出する神経伝達物質(ニューロトランスミッター)をBの受容体(レセプター)という部分で受取ることによって伝達されます(図5)。ニューロトランスミッターは何種類もあり、それに応じてレセプターも沢山あります。そして、そのレセプターの異常があるてんかん発作を引き起こす疾病がいくつか知られています。

睡眠中に手足のけいれんを引き起こす常染色体優性夜間前頭葉てんかんでは、ニューロンニコチン性アセチルコリンというトランスミッターに対するレセプターに異常があることが知られています。また、GABAという抑制性のトランスミッターに対するレセプターの遺伝子異常が明らかとなっているてんかん(小児欠神てんかんなど)もあります。


症候性てんかんの原因

症候性てんかんは、特発性とは異なり、原因や背景となる脳の病気や脳に何らかの障害があるものです。それには、頭部外傷後遺症、脳炎後遺症、脳虚血、形成異常、脳腫瘍、変性疾患、代謝疾患などの多くのカテゴリーが含まれます。

(1)遺伝子異常が明らかになってきた疾患

身体を構成する脂質や糖質などの代謝異常を来たす多くの疾患で、原因遺伝子、およびそれが存在する染色体の場所などが明らかになってきています。それらには、ゴーシェ病、テイザックス病、ラフォラ病、セロイドリポフスチン症、ガラクトシアリドーシスなど多くの疾患があります。これらは、脳だけでなく、肝臓、腎臓、脾臓などといった身体の多くの臓器にも、異常代謝産物が蓄積することにより、様々な症状が出ます。てんかん発作もその一つの症状です。

また、原因不明の神経細胞死を来たす神経変性疾患のうち、てんかんを起こす疾患でも遺伝子異常や染色体座が明らかとなっているものもあります。たとえば、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症という脳の様々な部位が変性する疾患では12番染色体上の遺伝子異常が明らかになってきています。

(2)脳外科治療の適応となるてんかんの脳病変

てんかん発作は多くの場合、抗てんかん薬の内服でコントロールが可能ですが、薬物療法で発作のコントロールが困難な症例を薬物抵抗性難治性てんかん、あるいは、単に、難治性てんかんと言います。この難治性てんかんの一部に、脳外科治療が適応となる疾患があります。それは、症候性てんかんのうち、脳に何らかの器質的な病変のある疾患で、多臓器が障害される代謝性疾患や、神経変性疾患は含まれません。器質的な病変というのは、脳の細胞自体や細胞構築に異常のあるもので、海馬硬化症(図6)脳形成異常(図7)脳腫瘍炎症後遺症などがあります。

図6

図6

側頭葉てんかんでは、脳の深部の海馬(かいば)という部分のうち、主にアンモン角といわれる部分の神経細胞が消失することにより萎縮し(a ★)、シナプス蛋白もなくなり(b ★)、その結果、瘢痕化が生じて硬くなります(c ★)。この状態を海馬硬化といいます。

図7

図7

乳幼児期に重篤なけいれん発作を発症し、画像検査で脳形成異常が発見されると脳外科治療の適応となる場合があります。大脳の神経細胞の配列が乱れ(a)、大きな神経細胞が出現したり(b)、異型に分化(成長)したグリア細胞(c)などが出現することがあります。

医学研では、東京都神経病院のてんかん外科治療を専門とする脳神経外科と共同して、てんかんの焦点切除脳組織の病理診断やてんかん原性に関する研究を行なっています。また、てんかん外科治療を行なっている東京都をはじめとする全国の大学や病院から、てんかん外科病理診断のコンサルテーションセカンドオピニオンの依頼を受け付けています。

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