2025年7月16日
カルパイングループの大内史子主任研究員、小野弥子プロジェクトリーダー(当時)らは、「肢帯型筋ジストロフィーR1型マウスモデルの発症初期の特徴としての全身性の代謝異常」についてBBA―Molecular Basis of Disease に発表しました。
カルパイングループの大内史子主任研究員、小野弥子プロジェクトリーダー(当時)らは、「肢帯型筋ジストロフィーR1型マウスモデルの発症初期の特徴としての全身性の代謝異常」についてBiochimica et Biophysica Acta (BBA)―Molecular Basis of Diseaseに発表しました。
当研究所カルパイングループの大内史子主任研究員、小野弥子プロジェクトリーダー(当時)らは、肢帯型筋ジストロフィーR1型モデルマウスの解析を通じ、発症初期からの特徴として全身性の代謝異常が生じることを明らかにしました。
本研究成果は国際学術雑誌「Biochimica et Biophysica Acta (BBA)―Molecular Basis of Disease」のオンライン版に7月16日に掲載されました。
肢帯型筋ジストロフィーR1型(LGMDR1/ LGMD2A)[1]は四肢近位部に進行性の筋繊維の変性や壊死による筋力低下を呈する難病で、骨格筋特異的に発現するカルパイン-3というカルシウム依存性システインプロテアーゼ[2,3]の病原性変異が原因で発症します。薬剤の投与や遺伝子導入などが検討されていますが、まだ確立された治療法はありません。また、現在の診断方法は患者さんの負担が大きいため、より負担の少ない診断方法や治療効果の評価方法が求められています。
これまでに、発症後のLGMDR1モデル動物の骨格筋に焦点を当てた研究から、カルパイン-3のプロテアーゼ活性とともにプロテアーゼ活性以外の機能も病態発症に関わることが示されていました。
本研究では、長期間にわたりカルパイン-3遺伝子を改変したLGMDR1モデルマウスを健常な野生型のマウスと比較解析しました。
骨格筋の超微細構造を観察したところ、LGMDR1モデルマウスでは壊れたミトコンドリアや、サルコメア構造[4]の乱れが25週令以降で認められました。また骨格筋のプロテオーム解析により、様々な生理機能が骨格筋での症状が影響を受けていることが示されました。特に代謝はLGMDR1の症状が観察されるよりも前から影響を受けていました(図1)。
必須アミノ酸の中でも骨格筋で代謝される分枝鎖アミノ酸(BCAA)[5]の代謝について注目してメタボローム解析を行ったところ、中間代謝産物が骨格筋内に滞留しており、全身のエネルギーバランスに影響が及ぶことが推測されました。そこで、肝臓や血中の糖や脂質について調べたところ、LGMDR1モデルマウスの肝臓は中性脂肪やグリコーゲンなどのエネルギー源が減少していること(図2)、血中の脂質は発症前のメスで一過的に上昇することが明らかになりました。
以上から、これまで骨格筋内の現象に焦点を当てられてきたLGMDR1病態研究に、骨格筋に特異的なカルパイン-3の欠失により全身のエネルギーバランスが変化するという、新たな視点が得られました。さらにこのことは、血液中の脂質などが診断情報として利用できる可能性を示しており、患者負担の少ない新しい診断方法につながる手がかりとなると考えられます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:大内史子、Grant Number 26670166)、科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:小野弥子、Grant Number 22K06156)、科学研究費基盤研究(C)(研究代表者:秦勝志、Grant Number 23K06126)の研究費支援、武田財団(小野弥子、秦勝志)を受けて行われました。