2025年4月23日
社会健康医学研究センターの宮下光弘副参事研究員、西田淳志センター長、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 成田瑞室長、京都大学医学研究科 古川壽亮名誉教授らの研究グループは「精神科領域における媒介分析の質向上に向けた提言」について『JAMA Psychiatry』に発表しました。
媒介分析は、曝露(注1)とアウトカム(注2)の関係を仲介するメカニズムを明らかにする重要な解析手法です。しかし精神科領域では、その前提条件が十分に満たされていないことが多く、結果の妥当性に課題があると指摘されています。本研究では、因果関連の厳密な検討において特に重要な3つのポイントについて注意喚起を行いました。
本成果は、より有効な介入ターゲット(注7)の特定や、新たな予防・治療戦略の構築に貢献することが期待されます。
媒介分析は、曝露(例:治療介入)とアウトカム(例:症状の改善や悪化)との関係を仲介するメカニズムを明らかにするための重要な方法論です。しかし、精神科領域の研究においては、分析の前提条件が十分に満たされていない場合が多く、結果の妥当性に影響を与える恐れがあると著者らは考えてきました。
今回の論文では、精神科領域における媒介分析の質を高めるために、特に注意すべき以下の3つの点を示しました(表1)。
説明 | 課題 | リスク |
---|---|---|
曝露・媒介因子・アウトカムの時系列 | 横断データまたは2時点データに依存している場合が多く、明確な時系列が確立できない。 | 因果の逆転 |
媒介因子―アウトカム、および曝露―媒介因子間の交絡 | 曝露―アウトカムの交絡のみを調整し、媒介因子―アウトカムや曝露―媒介因子の交絡が適切に調整されていない。 | 交絡バイアスおよび因果の逆転 |
曝露―媒介因子間の交互作用 | 曝露―媒介因子間の交互作用が考慮されていない。 | モデルの誤設定および媒介メカニズムの誤解 |
特に、曝露が媒介因子に影響を与え、媒介因子がアウトカムに影響を与えるという因果の流れを厳密に検討するためには、原則として3時点以上の縦断データが不可欠であることを強調しています。また、媒介因子―アウトカムや曝露―媒介因子の交絡を統計学的に調整しなければ、因果効果を特定できないこと、さらに、曝露―媒介因子間の交互作用を適切にモデリングすることの重要性も指摘しました。
本研究成果は、精神科領域における媒介分析のガイダンスとなるものです。媒介効果をより正確に評価することで、次の2点が特に期待されます。
これにより、将来的には新たな予防・治療戦略の構築にもつながると考えられます。今後、研究者は「AGReMA声明」(媒介分析の報告ガイドライン)を遵守するとともに、本論文で指摘された各課題に留意し、媒介分析の妥当性を高めることが求められます。