2025年6月7日
再生医療プロジェクトの高橋剛研究員、宮岡佑一郎プロジェクトリーダーらは「CRISPR-Cas9はヒトiPS細胞の相同染色体の標的DNAに同一のゲノム編集を誘発する」についてStem Cell Research & Therapy に発表しました。
ヒトiPS細胞におけるゲノム編集は、遺伝性疾患の治療法開発のために重要です。しかし、CRISPR-Cas9によるゲノム編集は、目的とする編集に加え、ランダムな挿入や欠失を誘導することが知られています。ヒトは染色体セットを2つ持ちますので、ゲノム編集を実施した細胞集団には、これらの配列が様々に組合わされた細胞が存在することになります。ゲノム編集で生じた様々な遺伝子配列の組合せや頻度を把握することは、編集がもたらす治療効果を推定するために重要です。しかし、iPS細胞は単一細胞化による細胞死が生じやすく、従来の単一細胞クローニング法で多数のクローンを樹立して解析を実施することは困難でした。
再生医療プロジェクトの高橋剛研究員(当時、現・協力研究員、東農大)、前田湊研修生(当時)、篠﨑佳代子研修生(共に東京科学大院)と宮岡佑一郎プロジェクトリーダーは、ゲノム編集されたiPS細胞を単一細胞から細胞塊へと増殖可能なゲルドーム培養法に加えて、画像認識システムとロボットによる細胞操作を介した正確な細胞自動分取が可能なCELL HANDLERTM(ヤマハ発動機株式会社)を活用することで、1,000以上のゲノム編集iPS細胞クローンの樹立に成功しました。得られたクローンのゲノム編集結果解析により、iPS細胞のゲノム編集では、両親由来の2本の相同染色体上に存在する標的DNA配列に、同一の編集配列が生じる頻度が高いことが明らかになりました。例えば、1塩基挿入や8塩基欠失であっても、同一のゲノム編集が2つの標的DNAに誘導されることが確認されました。本成果は、ヒトiPS細胞におけるゲノム編集の新たな知見であり、遺伝性疾患の治療法開発への貢献が期待されます。