東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2025年6月27日
社会健康医学研究センターの新村順子主任研究員、山﨑修道副参事研究員らは「若い初産妊婦の産後うつ症状軽減には、妊娠中に頼れる人が「6人以上」必要―東京都妊産婦コホート研究から明らかに―」についてEpidemiology and Psychiatric Sciences に発表しました。

若い初産妊婦の産後うつ症状軽減には、妊娠中に頼れる人が「6人以上」必要
―東京都妊産婦コホート研究から明らかに―

当研究所 社会健康医学研究センターの新村順子主任研究員、山﨑修道副参事研究員、西田淳志センター長らは、東北大学 大学院医学系研究科 中西三春 准教授らと共同して、初産妊婦を支える社会環境と産後のメンタルヘルスについての研究を実施しました。その結果、1)妊娠中に困ったとき、頼れる人が 4 人以上いる場合は、産後のうつ症状1) が大きく軽減されること、2)25 歳以下の若年初産妊婦に限ると、産後のうつ症状を大きく軽減するために、頼れる人が 6 人以上必要であることが明らかになりました。

本研究では、東京都内 4 自治体在住の初産妊婦を対象とした妊産婦コホート調査2) である「母子・新生児東京コホート(Mother-Infant/Newborn Tokyo Cohort:MINT コホート)」のデータを分析しました。その結果、初めての妊娠時に頼れる人の数が、産後のメンタルヘルスを大きく左右すること、また若い妊産婦は、より幅広いつながりが必要であることが示されました。本研究は、特に若い妊産婦における妊娠時からの社会的なつながりが、産後うつ予防に重要であることを示唆しています。

本研究の成果は、国際学術誌「Epidemiology and Psychiatric Sciences」(電子版)に日本時間 2025年6月27日に掲載されました。

論文情報

<論文タイトル>
“Investigating the association between the number of interpersonal supporters during first-time pregnancy and postpartum depression symptoms.”
(初回妊娠時の頼れる人の数と産後のうつ症状の関係の検証)
<発表雑誌>
Epidemiology and Psychiatric Sciences
URL:https://DOI.org/10.1017/S2045796025000241

研究の背景

産後うつは、母親自身のメンタルヘルスの問題にとどまらず、子どもの発達や親子関係、ひいては社会全体に及ぼす影響が大きく、公衆衛生上の重要課題とされています。国際的な研究では、初めて妊娠した妊婦(初産婦)は、妊娠出産を過去に経験した妊婦(経産婦)と比べて、産後うつになりやすく、特に若い初産婦では、社会的孤立や経済的な困難に直面したり、予期せぬ妊娠も多いため、産後うつのリスクが更に高いことが指摘されています。一方で、妊娠中に信頼できる人の数が多いと、産後のメンタルヘルスが改善されることが明らかになりつつあります。しかし、具体的に何人頼れる人がいれば、産後うつ症状の軽減に十分なのかは明らかになっていません。

本研究では、東京都内在住の初産婦を、妊娠時から産後まで追跡調査し、産後うつ症状を軽減するために必要な頼れる人の数を調べました。

研究の概要

東京都内 4 自治体在住の 429 名を対象とした「MINT コホート」では、参加者が妊娠し、妊娠届を提出した妊娠早期に調査に参加し、その後追跡調査を継続しています。本研究では、MINT コホートの妊娠早期と産後 1 か月時点のデータを用いました。頼れる人の数と産後のうつ症状は、妊婦自身が回答しました。

まず、初産婦全員のデータについて、頼れる人の数と産後うつ症状の関係を調べました。その際、セグメント回帰分析3)を用いて、両者の関係が大きく変わるポイント(変曲点)を統計的に明らかにしました。その結果、頼れる人の数が 3 人までは、その人数が増えても産後うつ症状は大きく軽減しませんでしたが、4 人以上になると、人数が増えるごとに産後うつ症状が軽減していくことが分かりました(図1)。一方、25 歳以下の若年初産婦に限ったデータで分析をすると、頼れる人の数が 5 人までは、産後うつ症状は大きく軽減せず、6 人以上になったところで症状が軽減していました(図2)。

図 妊娠中の頼れる人の数と産後うつ症状の関係

社会的意義と今後の展望

本研究から、初産婦全体では、妊娠中に頼れる人の数が 4 人以上になると、産後うつ症状が大きく軽減されることが分かりました。妊娠中の社会的なつながりや支えが一定の量を超えることで、産後うつ症状を予防できる可能性が示唆されました。さらに、25 歳以下の若年初産婦においては、その閾値が 6 人近くまで上昇し、より多くの支援がなければメンタルヘルスを守ることが難しい可能性があることが示されました。しかし実際にこの水準に達していた若年妊婦は 2 割程度にとどまっており、支援の不足と格差の存在が浮き彫りとなっています。これらの知見は、妊産婦支援の仕組みや体制を設計する際の具体的な基準(支援者数の目安)を提供するものであり、特に支援が行き届きにくい若年層に向けて、重点的・集中的に支援資源を配置する必要性を強く示唆しています。今後は、本研究の成果を活かしながら、妊娠期から切れ目なく支援を届ける地域モデルの開発や、若年妊婦に対するアウトリーチ強化、支援ネットワークの形成支援など、支援者数の「質と量」の両面から包括的に支える仕組みの構築が期待されます。

本研究の主な助成事業

本研究は、科学研究費補助金 JSPS KAKENHI (JP18K10375, JP20H01777, JP20H03951, JP21K10487, JP22K17509, JP23H03174, JP24K14025) 、文部科学省学術変革領域(A)『「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解(21H05171, 21H05173, 21H05174)』、科学技術振興機構 未来社会創造事業(JPMJMI21J3)、社会技術研究開発事業 JST RISTEX(JPMJRS24K1)、および東京都 の支援を受けて行われました。

用語説明

1)産後うつ症状:
出産後に妊婦が経験するうつ症状。本研究では、国際的に広く用いられているエジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)に、妊産婦が回答した結果を集計して得点化した。
2)コホート調査:
特定の集団を複数の時点にわたって追跡調査する方法。本研究では、都内在住の妊婦を妊娠早期から産後 1 年まで追跡調査したデータを用いた。
3)セグメント回帰分析:
2 つの変数の間の関係性が大きく変わるポイント(変曲点)を統計的に明らかにするための分析。本研究では、妊娠時の頼れる人の数と、産後 1か月時点のうつ症状得点との関係の変曲点を見出すために用いた。

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