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糖尿病合併症から身を守る

4.その他の合併症

その他の合併症

糖尿病に特有な合併症ではありませんが、糖尿病があると起こりやすいものとして動脈硬化症、足病変、感染症、脂肪肝などがあります。特に動脈硬化症は心筋梗塞や脳血管障害などの重篤な疾患を引き起こし、そのまま死に至ることもあります。

動脈硬化症

動脈壁が硬くなり、肥厚して内腔が狭くなる病態です。動脈硬化の原因として、加齢、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満などがあげられます。糖尿病では耐糖能異常(経口糖負荷試験境界型)が出現した時から動脈硬化の進行がみられ、正常者に比べて心筋梗塞や脳梗塞による死亡率が高いことが報告されています。これはとりもなおさず、耐糖能異常の段階で生活習慣の改善(肥満の是正、運動の継続、禁煙、節酒等)に取り組み、動脈硬化の予防につとめることが重要であることを示唆しています。

網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害に対して、動脈硬化性疾患を大血管障害と呼んでいます。特に注意を要する大血管障害として、虚血性心疾患、脳血管障害、末梢血管障害があげられます。

虚血性心疾患:
狭心症は、心臓の筋肉に酸素や栄養を供給する冠動脈に硬化が進行し血流が低下する(心筋虚血)ことによって起こります。運動や感情の昂揚(怒りや興奮)をきっかけとして、胸部の痛みや圧迫感などの一過性の発作がみられます。さらに硬化が進み血栓(血の塊)などで完全に冠動脈が詰まってしまうと、血流が断たれた部位の心筋は急速に壊死に陥ります。これが急性心筋梗塞で、通常激しい胸痛とショック症状で発症します。ところが糖尿病で神経障害が進行している患者では、狭心症や心筋梗塞の発作を起こしても強い痛みを感じない場合が多く(無症候性心筋虚血、無痛性心筋梗塞)、特に後者では対応が遅れ重篤な心不全に陥ってしまうこともあります。糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ、約3倍、虚血性心疾患になりやすいとの報告もあります。
脳血管障害:
頸部の大血管や脳内の主幹動脈に硬化が進むとともに、血小板機能や血液凝固機能が亢進して血栓ができやすい状態になっています。脳内の血管が血栓により閉塞したり(脳血栓症)、脳以外の部位(多くは心臓)の血管に生じた血栓が血流によって運ばれ脳内の血管を詰める(脳塞栓症)と、脳神経細胞の壊死(脳梗塞)が生じます。死に至るケースも多く、命はとりとめても失語症や言語障害、半身麻痺等が残ります。糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ、約3倍、脳血管障害になりやすいとの報告もあります。
末梢血管障害:
下肢の閉塞性動脈硬化症が頻度として高く、歩行時の痛みや足の冷感、足の脈拍を触れにくい等の症状がみられます。歩いているうちに痛みが強くなり、休みながらでないと歩けなくなります(間欠性跛行)。重症例では下肢切断が必要になる場合もあります。

大血管障害が進行すると生活の質がかなり低下します。健康寿命を延ばすためにも、糖尿病、高血圧、脂質異常症の管理をしっかりと行い、肥満解消、禁煙が必要となってきます。

易感染性

高血糖状態が続くと免疫力が低下し、さまざまな感染症に罹りやすくなります。特に血糖コントロールの悪い患者では重症化しやすく、命にかかわることも稀ではありません。高血糖自体が細菌の増殖に好適な環境であることに加え、炎症反応に預かる白血球(好中球やリンパ球)の機能を低下させることが報告されています。さらに神経障害(感覚鈍麻)により炎症反応に気付くのが遅れたり、血管障害により炎症局所に充分な酸素、栄養等を供給できないことなども、感染症が悪化しやすい要因です。頻度が高いのは呼吸器系感染症(気管支炎、肺炎、肺膿瘍、結核等)と尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎等)ですが、皮膚感染症(カンジダ症、白癬症(みずむし)等)、口腔内感染症(齲蝕(むしば)、歯周炎等)などにも注意を払う必要があります。特に歯周病は、3大合併症、足病変、動脈硬化性疾患に次いで糖尿病第6の合併症とも言われ、歯周病があるとより血糖コントロールが不良になり、逆に歯周病が改善することで血糖コントロールが改善することがあります。

骨病変:
糖尿病により骨量低下がもたらされることが、以前より知られています。近年さまざまな疫学研究により、1型糖尿病では骨密度・骨強度ともに低下し骨折の危険性が高まること、2型糖尿病では骨密度は健常者より高値を示す場合が多いものの、骨強度はこれとは比例せず、骨折率は健常者よりむしろ増加することがわかってきました。そのメカニズムとして、先述した酸化ストレスの増加や、タンパクの糖化によるAGEの増加が骨質の劣化、骨強度の低下をもたらすことが報告されています。1型糖尿病、2型糖尿病を問わず血糖管理が不十分な例では、骨材質特性の変化により骨強度が低下する可能性が考えられています。

最後に(2型糖尿病の管理-合併症予防)

飽食の時代において、「食べたい」という欲求を抑え自己管理を継続することは容易ではありません。糖尿病はまさに自分自身との闘いです。2型糖尿病と診断されたら、医療スタッフの支援や家族の協力のもとに血糖コントロールをしっかりおこない、3大合併症や動脈硬化症の進行を阻止することが重要です(図16)。はじめから薬に頼るのではなく、食事療法と運動療法を徹底して「自分の身体は自分で守る」という心構えを持つことで、健常者と同じような生活を送ることができます。

図16. 2型糖尿病の管理—合併症の予防

図16.2型糖尿病の管理—合併症の予防

「糖尿病合併症から身を守る」は、旧東京都神経科学総合研究所ホームページ「身近な医学研究コーナー・糖尿病による神経系の障害」を改訂したものです。改訂に際しご協力頂いた、東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科・宇都宮一典教授、愛知学院大学薬学部薬物治療学講座・加藤宏一教授ならびに社団法人健朗会三五医院・三五美和院長に深謝致します。

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