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開催報告

平成27年度 都医学研夏のセミナー

当研究所では、毎年夏期に保健師や医師、研究者、学生を対象に4~5日間のセミナーを行っています。
今年は下記のとおり3つの講座を開催いたしました。

「難病の地域ケア看護コース」

難病ケア看護プロジェクト 主席研究員 小倉 朗子

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難病保健活動を確実に創はじめる・推めるために -「難病法」施行元年「難病対策地域協議会」を活用しよう-

6月15日から19日までの5日間にわたり開催しました第41回都医学研夏のセミナー「難病の地域ケアコース」は、北海道から沖縄までの全国の保健所等保健師49名の方にご参加いただき、無事に終了することができました。

このセミナーは、東京都神経科学総合研究所に社会学研究室―看護学チームが誕生した1974年以来、つまり我が国で難病対策要綱が制定された翌年から毎年1回、欠かすことなく開催してきましたが、難病の地域ケアシステムづくりを担う全国の保健師等のみなさんに対して研究成果を普及したり、帰納的な実証研究の場となってきました。この間、在宅医療の制度化、介護保険制度、障害者総合支援法の創生など、難病の地域ケアシステムにかかわる国の制度は大きく変わり、本年1月には「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行されました。本法の施行に伴い指定難病(医療費助成の対象となる疾患)の数は56疾患から306疾患に増えましたが、それ以外の施策の変更については、国や各都道府県が目下検討中です。

このような中、国と各地の難病施策や難病保健活動のことについて参加されたみなさんと共有すると共に、「難病の地域診断ツール」の試用により各地の難病療養の課題とその対策を検討することで、今後の各地での保健活動を展望しました。

介護保険や障害施策に基づくサービスが民間事業者に委ねられている現在、地域全体の在宅医療・療養体制の整備・サービスの質の保障における行政の役割は大きくなっています。とかく日頃は見えにくい保健師の活動ですが、特定の個人への支援に加えて療養しやすい地域をつくる保健師・保健行政の役割が今後も推進されるよう、引き続き研究の立場からも保健師のみなさんとスクラムを組んでいきます。


臨床教育コース「神経病理ハンズオン」

神経病理解析室 研究員 小島 利香

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本年度も、7月27日から4日間コースで神経病理ハンズオンを実施しました。このコースは、脳神経系のほぼすべての疾患カテゴリーの標本を実際に手に取って観察するハンズオン式の実習であり、4日間で多数例を経験できる短期集中カリキュラムを提供しています。また、デジタル教材を併用しているところも特徴です(植木さん、八木さんが作成)。

受講者は精神科医3名、神経内科医2名、小児科医1名、獣医師1名、医学部生1名の計8名で、比較的若い受講者が多く和気あいあいとした雰囲気で行われました。

講師は神経病理解析室の新井信隆・副所長、関絵里香・技術研究員(写真、黄色姿)が務め、私は供覧標本や資料の準備などを担当しました。

初日は、脳のマクロ実習や基本的な病変の見方についての実習を行いました。

二日目以降は、石澤圭介先生(埼玉医大病理講師)、原田一樹先生(防衛医大法医学准教授)を特別講師にお招きし、様々な神経変性疾患の代表的症例の解説に加え、頭部外傷などの多岐にわたる疾患の神経病理を学習しました。受講者の方からも積極的に質問が出たり、熱心にノートをとる様子から関心の高さを伺うことが出来ました。

今回のセミナーが、ご参加いただいた皆様の今後のご活躍にお役立て頂ければ幸いです。


基礎· 技術コース「睡眠研究における実験解析技術の習得」

睡眠プロジェクト 副参事研究員 児玉 亨

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7月13日から7月16日までの4日間にわたり、恒例となった睡眠研究に関する基礎技術を習得するためのセミナーを実施しました。脳波測定・解析という生理学的手法は、睡眠研究を進める基本としてだけでなく遺伝子改変動物の表現型を調べるなど他の分野からも要求が増えてきていますが、体系的研修を受ける機会が少なくなってきています。

そこで夏のセミナーでは、睡眠科学を目指す学生・若手研究者を中心に多くの方々に睡眠覚醒判定の標準となる手法を体験してもらう機会を提供しています。

今回は、昨年度のセミナー後のアンケート集計をもとに、生理学的手法に絞って、できるだけ参加者自身で手を動かして体験してもらうという点を重視して行いました。今年も定員いっぱいの6名が参加され、開催責任者としてはしっかりとした手応えを感じております。

4日間という短い期間のため、かなりタイトなスケジュールでしたが外部からの支援も有り、参加者の方々には睡眠研究の基礎に関していくつかの重要なポイントをお伝え出来たと確信しております。来年以降も、基礎研究を考えている研究者の要望に添った形で同様のセミナーを続けていきたいと考えています。


基礎· 技術コース「神経系への遺伝子導入」

神経細胞分化プロジェクトリーダー 岡戸 晴生

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7月13日から5日間、神経細胞への遺伝子導入に関するセミナーを開催しました。神経細胞に外来遺伝子を導入することは、神経細胞の機能解析に役立ちます。例えば、蛍光蛋白を発現させておけば神経細胞が形態を変化させながら移動する様子を実時間で観察でき、脳形成のメカニズムを明らかにすることができます。また、ある遺伝子産物を欠落あるいは減少させることや、逆に増やす事もでき、その結果からその遺伝子が神経細胞に果たす役割を明らかにできます。さらに最近は、光で活性化する膜蛋白を導入して、光で特定のニューロンの働きを制御することで、そのニューロンの生理的な意義を明らかにできます。

当研究室では、遺伝子導入の方法として主に子宮内エレクトロポレーション法とウイルスベクター法を用いています。今回のセミナーは、サル脳にウイルスベクターの利用を計画している研究者と、内科の臨床をしている方の2名が受講しました。実際に、子宮内エレクトロポレーションとアデノ随伴ウイルスの作製に関する基礎的な実験をやっていただきました。とくに前者ははじめてのことで大変であったと思いますが、意欲的に取り組んでいただき、有意義であったと思います。アンケートでは、もっと当研究室の実際の研究の話が聞きたかったとのご意見もあり、次回はその点を改善したいと思います。

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