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特集

粘膜免疫による花粉症等アレルギー疾患の治療法

花粉症プロジェクトリーダー廣井 隆親

廣井 隆親

プロジェクト研究の概要

年々増加するスギ花粉症等のアレルギー疾患は東京都民の約3人に1人が罹患していると考えられています。これまでのアレルギー疾患の治療は、抗アレルギー薬やステロイド剤などを用いた対症療法が主でしたが、平成26年にスギ花粉症の根治療法である、舌下免疫療法が保険適応医療として認可されました。この免疫療法は、スギ花粉を含んだエキスを毎日少しずつ舌下に垂らして免疫応答の寛容を誘導するものですが、約2年間の治療で6~7割の患者に効果があるとされています。

舌下免疫療法は、長期の服用及びそれにともなう費用の負担が発生するため効果のある患者の選別が必要でしたが、この免疫療法の作用機序は不明なため、判別が困難でした。私たちは、この治療法の効果的なバイオマーカーを探索しており、これによって花粉症治療における個々の体質に基づいたオーダーメイド医療を目指した研究をしています。

一方で花粉症以外の炎症性アレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性腸炎、食物アレルギーなど)においても、各々に病態の特徴が異なっています。そこで、各々の病態特徴を理解した治療法や投薬を開発しなければなりません。

本プロジェクトは、スギ花粉症を含んだアレルギー疾患に対して、安全で効果的でありかつ医学的にも経済的にも優れた治療法を、基礎研究の成果に基づいて開発しています(図1)。

図1.花粉症プロジェクトの研究概要

図1 花粉症プロジェクトの研究概要

今回は、一般の免疫と比較してユニークなは少し異なる特徴がある粘膜免疫機構におけるの炎症性アレルギー疾患の一例をご紹介させていただきます。


アレルギー疾患とT細胞

一般にアレルギーとは、体から異物を排除して感染症などから体を守る大切な仕組みである「免疫」が、本来害のないものである花粉などに対してリンパ球などが過剰に反応することです。リンパ球細胞のT細胞は、骨髄で生成され、胸腺でいくつかの工程をへて成長していきます。その成長の過程で未熟なT細胞へと細胞分化をします。

さらに生成されたばかりの未熟なT細胞は、アレルギー物質に反応する3種類のそれぞれの役割をもったヘルパーT細胞と、それを抑制する抑制性T細胞に分化します(図2)。特にヘルパー2型T細胞はアレルギー疾患と強い関連性が示されてきました。

一方で、抑制性T細胞はヘルパー1型、2型または17型T細胞の活性を抑制することによりアレルギー発症を抑制し、この抑制性免疫反応のアンバランスが起こることにより、病気が発症すると考えられています。

図2.ヘルパーT細胞の分化

図2 ヘルパーT細胞の分化

タイプ別ヘルパーT細胞によるアレルギー疾患の特徴

アレルギー疾患において共通する病態像は、局所または全身の炎症の増加です。IgEとヘルパー2型T細胞とが関与する花粉症のように、外に出て直ぐに症状が現れるものから、ヘルパー1型、2型とIgEが関与するとされる気管支喘息のように、症状が数時間持続するもの、あるいはヘルパー1型と17型が関与するリウマチのように慢性的に長期持続するものまで様々なタイプの炎症があります。しかしながら多くの疾患では、各種のヘルパーT細胞が複雑に関与して病態を形成しています。そこで、アレルギーモデルマウスの一つとして、活性化されたそれぞれのヘルパーT細胞亜集団を移入したアレルギー性大腸炎のモデルを用いて、どのタイプのヘルパーT細胞がアレルギー性大腸炎の病態誘発に重要なのかを検討しました。


アレルギー性大腸炎におけるヘルパーT細胞の役割

マウスモデルにおけるアレルギー性大腸炎の臨床症状は、大腸の肥厚です。今回はアレルゲンとしてニワトリ卵白アルブミン(OVA)を用い、このアレルゲン特異的に反応する3つのタイプ(1型、2型、17型)のヘルパーT細胞(OVA以外のアレルゲンには反応しない)を作成しマウスに移入して、OVAを注腸することにより大腸炎を誘発させ、大腸肥厚係数を測定しました(係数が大きいほど炎症の重症化が認められる)。結果は、全てのヘルパーT細胞において炎症が誘発されました(図3、抑制性T細胞の移入マイナス(-)の項)。これらの結果は、程度に差はあれ、どのヘルパーT細胞も炎症を誘導することが明らかになりました。


アレルギー性大腸炎における抑制性T細胞の作用

次に、大腸炎の炎症抑制機構に抑制性T細胞が関与しているかを検討しました。先の大腸炎誘導モデルにおいて、OVA特異的な抑制性T細胞を同時に移入して、大腸肥厚係数を測定しました(図3、抑制性T細胞の移入プラス(+)の項)。

その結果、へルパー1型または2型T細胞を移入して誘導した大腸炎は抑制性T細胞を移入することによって炎症の抑制が認められました。しかしながら、ヘルパー17型T細胞を移入して誘導した大腸炎は、抑制性T細胞を移入した場合にさらなる増悪が認められました。

図3.ヘルパーT細胞移入による大腸の肥厚

図3 ヘルパーT細胞移入による大腸の肥厚

粘膜免疫における抑制性T細胞の役割

一般に、全身における免疫系において抑制性T細胞は各種ヘルパーT細胞の活性化を抑制する機能を持ち合わせた細胞であると考えられてきました。しかしながら本研究の結果から、消化管を代表とする粘膜面でのヘルパー17型T細胞に依存的な大腸炎では、抑制性T細胞が病気を治すどころか増悪させてしまう結果となりました。

さらに、ヘルパー17型T細胞依存型の病気として全身系の免疫疾患である関節リウマチがあり、生物製剤であるアバタセプト(可溶性CTLA-4)が治療薬として臨床の場で使用されています。この薬の主な作用は、CTLA-4分子によるヘルパー17型T細胞の活性化阻害です。アバタセプトを先のヘルパー17型T細胞を移入した炎症性腸炎モデルマウスに投与すると、大腸炎がさらに増悪しました。この結果は、可溶性CTLA-4が抑制性T細胞上に発現するCTLA-4と同じ働きをしたと考えています。この結果は、本来炎症を抑制するための治療薬が、重篤な副作用として大腸炎を増悪することを示しており、このような例は臨床でも報告されています1)。目的の病気が寛解しても、新しい病気になっては意味がありません。

体の中は、炎症性腸炎に関与するような粘膜免疫と、関節リウマチに関与するような全身免疫が共存していますが、それぞれの病気の成り立ちが同じヘルパーT細胞でも臓器ごとに違っています。

私たちのプロジェクトは、これからも、各アレルギー疾患の病態の特徴を十分に理解して、治療法の開発に貢献していきたいと思っています。

花粉症対策
■外出時
  1. メガネ・マスクを着用
    • マスクは花粉をブロックし、呼吸しやすいものが理想
    • 通常のメガネでも、花粉の付着を減らすことができる。
  2. 表面が滑らかな素材の服装
    • ウール素材は避ける。
    • 帽子も有効
■家の中
  1. 帰宅時は花粉をはらう
    • 衣服や髪についた花粉を除去
    • 洗顔、うがいなどを行う
  2. こまめな掃除
    • 家の中の花粉を除去
  3. 日中の窓や戸の開閉を少なくする。
    • 花粉を家に入れない
    • 特に花粉量の多い日は気をつける。
コラム

今回のお話しは【アレルギー疾患】でした。
廣井先生のお話しのとおり、病気に特異的な1・2・17型などのようなヘルパーT細胞が抑制性T細胞より優位に働くことにより、様々な症状を引き起こす疾患がアレルギーという事になります。
では、このようなヘルパーT細胞を無くしてしまうとどうなりますでしょうか?
私たちの体は、細菌やウイルスから身を守る事が出来なくなります。
何事もバランスが大切です。


参考文献

  1. L M Amezcua‐Guerra, B Hernández‐Martínez, C Pineda, and R Bojalil. Ulcerative colitis during CTLA‐4Ig therapy in a patient with rheumatoid arthritis. Gut. 2006 ; 55(7): 1059–1060.
    doi:10.1136/gut.2006.095539
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