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開催報告

2019年度 第1回 都医学研 都民講座 (2019年4月16日開催)
こどもの脳の難病を治す ―遺伝子治療の幕開け―

こどもの脳プロジェクトリーダー佐久間 啓

2019年度第1回都民講座「こどもの脳の難病を治す−遺伝子治療の幕開け−」は2019年4月16日に公益財団法人東京都医学総合研究所講堂にて開催されました。

前半では私が「こどもの稀少神経難病に対する取り組み」というタイトルでお話しさせていただきました。難病と呼ばれる病気の解説に加えて、それを克服するために現在どのような研究が行われ、どのような治療が可能になっているかについて、先天代謝異常症という病気を例に挙げてご紹介いたしました。

後半では自治医科大学小児科の主任教授である山形崇倫先生が「小児神経疾患への遺伝子治療の開発−AADC欠損症に対する遺伝子治療−」と題した講演を行いました。この病気のために運動や知能に重度の障がいを持っていたこどもたちが遺伝子治療によって目覚ましい回復を見せ、自分で体を動かしたり食事をしたりできるようになった姿が動画を交えて紹介されました。遺伝子治療は遺伝子の異常によって起こる病気に対するいわば根治療法にあたりますが、これまで成功例は決して多くなく、この成果は画期的なものです。またAADC欠損症以外の病気に対しても遺伝子治療を含めた新しい治療法の開発が進んでいることを大変わかりやすく解説していただきました。

最後に参加者の皆様からのご質問をお受けしたのですが、その中で「難病の治療を考える時に、限りない未来があるこどもたちの病気を治すことに多くの力を注ぐべきではないか」という大変心強いご意見をいただきました。こどもは私たちの社会にとって「宝」であることは言うまでもありませんが、少子化という流れの中でこどもという集団はマイノリティとみなされがちで、さらに稀少難病となれば数少ない患者さんの声はしばしばかき消されてしまいます。しかしこのような小さな声にも耳を傾け、難病を克服するための研究を行うことは私たちのような公的研究機関の責務であると考え、これからも努力を続けてまいります。

最後にご来場いただきました方々並びに運営に携わったスタッフ一同にこの場を借りてあらためて御礼申し上げます。

図. 先天代謝異常症のメカニズム

体は様々な物質を必要としますが、これらの多くは食物から体内に取り込まれ、体の中にある酵素というタンパク質によって別の物質に次々に変わっていきます。もしこれらの酵素の一つが働かなくなれば、目的のタンパク質が作られずに不足し、一方でその材料となるタンパク質が過剰にたまってしまうことになります。酵素は遺伝子という設計図に基づいて合成されます。AADC欠損症という病気では、芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素という酵素の遺伝子に異常があるために酵素が働かなくなり、様々な神経の症状が現れます。そこでベクターという運び屋を使って正常な遺伝子を脳に導入することで、酵素の働きを正常化させようとする遺伝子治療が開発され、これを患者さんに投与したところ症状が著しく改善しました。

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