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平成27年11月6日

「平成27年度第5回都医学研都民講座」を開催しました

会場:一橋講堂

11月6日、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、東京医科歯科大学眼科学分野 大野京子 教授、東京慈恵会医科大学眼科学教室 野呂隆彦 助教を講師にお迎えし、講座を開催しました。

今回の講演では、最初に都医学研の原田高幸 参事研究員が、「目を老化から守るために」の講演主旨を説明しました。我が国における視覚障害者は160万人を超えており、高齢化社会の進行によってさらにその人数が増えること、視覚障害による社会損失額は8兆円以上にのぼることが紹介されました。特に緑内障は、先進諸国の失明原因の1~3位に位置づけられ、日本では40歳以上の罹患率が5.6%になっているとのことです。

次に、「いつまでも良く見えるために」と題し、大野教授から、加齢に伴う目の病気のお話をしていただきました。まず外界の情報の80%は見ることにより得ており、見えなくなった場合には社会的、心理的に大きなダメージとなるとのお話がありました。視覚障害は年齢とともに増加し、中高年者の失明原因のうち視力0.1以上0.5未満のロービジョン※1の原因は、白内障の割合が高いとのことでした。白内障は加齢や薬物、先天性などにより水晶体が混濁する病気で、白髪と同じように加齢に伴い多かれ少なかれほとんどの人に生じます。白内障の手術は、視力低下や自覚症状を説明できる程度で網膜や視神経など他の組織に病気がない場合に行えるとのお話がありました。さらに近年患者数が増加している黄斑変性症や日本人に多い強度近視の原因や最新の治療についてお話がありました。

続いて、「緑内障から目を守るには?」と題し、野呂助教から眼科に掛かる際の準備、緑内障と言われたらどうするか、不治の病に打ち勝つためにどのような研究が行われているかのお話がありました。まず、受診の際は初めてだと時間がかかり、散瞳検査※2後は帰りの運転が困難なことから、車で病院へは行くべきでないことや、目は全身状態と密接に関与するため検診や人間ドッグの結果を持っていくと良いとのお話がありました。また、緑内障発作を起こす可能性のある薬として、睡眠薬や抗うつ剤、麻酔薬、鼻づまり治療薬、総合感冒薬※3などがあるとのことです。

次に、緑内障と言われたら早期なのか中等度なのか重度なのかを確認することが重要であるとのお話がありました。進行判定には複数回の判定が必要であり、治療は根気よく行うことが大切であるとのお話がありました。目薬の使用目安は1か月に1本で、目薬は1度に1滴で十分とのことで、目薬が苦手な方にも様々な点眼補助器具があるとのことでした。

また、野呂助教は都医学研の協力研究員として研究に参画していることから、不治の病に打ち勝つために、都医学研では網膜の神経保護や視神経再生治療の研究を行っている事や、納豆やヨーグルトなどの食品にも含まれるポリアミンが神経再生を促進することなどのお話がありました。

講演終了後のアンケートでも「専門的な内容だったが分かり易かった。」「加齢に伴う目の病気について基礎的な話を聞くことができた。」「検診の大切さがよくわかった。」といった声が寄せられるなど、充実した講演会となりました。

※1 ロービジョン:視機能が弱く、矯正もできない状態。

※2 散瞳検査:強制的に瞳を広げる目薬をつけ、眼の奥の状態を詳しく調べる検査。

※3 総合感冒薬:頭痛、発熱、咳、くしゃみなどいわゆる風邪の諸症状の緩和に効果を出すように複数の成分を配合した医薬品。

写真:上から大野 京子 教授、野呂 隆彦 助教、原田 高幸 分野長



平成27年9月3日

「平成27年度 第4回都医学研都民講座」を開催しました

会場:一橋講堂

9月3日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「iPS細胞等を用いた再生医療の最前線」と題し、第4回都医学研都民講座を開催しました。外部講師には、慶應義塾大学医学部長の岡野栄之先生をお迎えしました。

今回の講演ではまず、当研究所の原孝彦研究員から「iPS細胞を用いた血液再生医療」というテーマで、都医学研の取組について概説しました。人間の体を流れている血液細胞、造血システムの成り立ち、造血幹細胞発見までの歴史、造血幹細胞の培養といった背景説明に続いて、造血幹細胞は通常骨髄内腔のニッチと呼ばれる場で分裂静止状態を維持しており、貧血や感染症等によってそれらがニッチから離脱すると増殖分化を開始することが説明されました。その後、胎児期に造血幹細胞が誕生する時期と場所、そしてヒトiPS細胞から造血幹細胞を作り出す研究の進捗状況についての紹介がありました。ヒトiPS細胞から造血幹細胞を作れるようになれば、骨髄バンクや臍さい帯血バンクの代替として造血幹細胞移植治療に役立つだけでなく、血液難病に対する治療薬の開発にも有用と期待されています。

次に、「世界一やさしいiPS細胞の授業」と題して、岡野先生からお話がありました。まず、慶應義塾大学医学部の建学の精神、超高齢化社会と重症難病疾患への挑戦についてなどの説明がありました。次に、傷ついた脳は甦るのかというお話しの中で、過去に実施されたパーキンソン病患者への胎児脳細胞移植治療の実例が紹介されました。この方法は、ヒト胎児組織の供給量、移植細胞の標準化、純度などの問題によって中止となり、その後ES細胞に目が向けられました。しかし、ES細胞は移植後の拒絶反応問題があるため、iPS細胞からドーパミン産生細胞を作り出すことが研究目標になった、とのお話がありました。最後に、我が国におけるiPS細胞を用いた再生医療研究の進捗状況と、次の重点課題が認知症対策と先制医療※であるという、お話がありました。アルツハイマー病患者から樹立したiPS細胞を使えば病態を試験管内で再現できること、そしてこの方法によって発症年齢よりずっと前の時点での診断と治療が可能となる、という最新の研究成果が紹介されました。会場の受講者全体が将来への期待に胸を膨らませた1時間半でした。

今年度、東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後4回実施予定です。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。



平成27年8月5日

「都立高校生のための都医学研フォーラム」を開催しました

会場:東京都医学総合研究所

8月5日(水)と8月20日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所において「都立高校生のための都医学研フォーラム」を開催しました。

「都立高校生のための都医学研フォーラム」は、医科学・生物学研究に興味を持つ都立高校の生徒たちに、当研究所の研究成果を分かりやすく伝え、研究室や中央の機器室等で簡単な実験や機器操作を実際に体験してもらうことにより、将来の進路選択の一助となるよう、昨年度から東京都教育庁と協力して開催しています。

午前中に、ゲノム動態プロジェクトリーダー 正井久雄 副所長から「ゲノムの増えるしくみとその起源・進化」というテーマで、DNAとゲノム、染色体、細胞周期などについて、認知症プロジェクト 野中隆 副参事研究員からは、「認知症を科学する:その原因解明と治療を目指して」というテーマで、認知症の主な症状や記憶の種類、認知症のモデルの作製と治療への応用などについて、講演が行われました。

午後は、前頭葉機能プロジェクト研究室において、前頭葉機能で起こる錯視・錯覚を利用した図形の観察や模型を使った実験、染色された神経回路を形成する細胞の顕微鏡観察をしました。また、神経病理解析室では、脳病理標本作成及びデータベース化技術の紹介とデータベースコンテンツの閲覧をしました。電子顕微鏡室では、電子顕微鏡を操作して小腸粘膜や大脳の神経細胞の画像を見て10億分の1のナノの世界を観察し、その後、高い技術を要する微細な試料作成のデモンストレーションを見学し、依存性薬物プロジェクト研究室では、遺伝子解析を行うための装置及び解析用チップの観察、ピペットの操作体験を行うなど、簡単な実験や機器操作を実際に体験しました。

その後、講演をした研究者、見学をした研究室、中央機器室のリーダーを交えた意見交換会が行われました。大変活発な質疑応答が交わされ、終了後も残って研究員に質問をしている生徒の姿も見受けられました。

参加した生徒からは、「生命科学や医学について理解を深めて、知らなかったこともわかるようになりました。」「最先端の医療や技術を体験できました。難しい内容が分かり易く説明され、理解できました。」「脳の標本や研究室など、普段は見られないものを見られました。」「プリズムなどを使った実験では自ら錯覚を体験することができました。」といった声が寄せられました。

当研究所では、来年度以降も東京都教育庁と協力して「都立高校生のための都医学研フォーラム」を実施していく予定です。



平成27年8月2日

サイエンスカフェin上北沢 「あなたの油(脂)は大丈夫ですか?」を開催しました。

会場:東京都医学総合研究所 講堂

8月2日(日)、公益財団法人東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 あなたの油(脂)は大丈夫ですか?」が開催されました。サイエンスカフェは、お茶や音楽とともに気楽な雰囲気の中で、身近なサイエンスについて研究者と自由に語り合う場です。

19回目のサイエンスカフェとなる今回は、私たちの周りに日常的にある油(脂)について、当研究所の村上研究員が話題提供をしました。まず前半では、「脂質ってなに?」というテーマで、脂質がどのようなものかイラスト、写真などを交えて解説がありました。自分たちに身近な中性脂肪や食用油における脂肪酸、コレステロールの体内での流れなどの説明を、参加者は熱心に聴講されていました。

後半の体験では、どの油が変敗しやすいか実際に実験していただきました。まず、班の代表者が手袋と白衣を着て、試料A、B、C、Dが入った試験管に油脂変性試薬を加え、混ぜます。その後、スタッフが試験管を沸騰したお湯で30分加熱し、取り出して冷まし反応を停止させます。

試料を加熱し、待っている間はミニコンサートが開かれ、ピアノ、バイオリン、チェロの美しい音色で参加者が癒されていました。

次に、試験紙全面に油が付くように浸し、取り出して3分間置き、試験紙の発色を待ちます。その発色した色により試料A、B、C、Dがどの油に相当するかをクイズ形式で回答してもらい、会場全体で盛り上がりました。

他にも、普段、研究所でどのような研究を行っているのか参加者が理解できるように、パネル展示を行い、研究員から分かり易く内容を説明し、多くの参加者が熱心に聞き入っていました。また、肌の水分の蒸発量を測定できる機器展示の前には行列ができていました。工夫をこらした内容に、参加者からは「研究員の方が分かり易く資料を作られ、実験も丁寧に進めてくれたり、補助してくれたり、楽しい時間を過ごすことができました。」「実験して班の皆さんで話し合ったのが楽しかった。」「とても面白い企画で、内容が工夫されていました。」「音楽がとても和やかな雰囲気作りに役立っていました。」といった声が多数寄せられました。

※変敗:食品の味や色が変わってしまって食用には適さなくなること。


平成27年7月15日

第3回都医学研都民講座を開催しました。

会場:一橋講堂

7月15日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「歩行の科学からみた認知症とパーキンソン病~高齢者の脳の健康と転倒予防のために~」と題し、第3回都医学研都民講座を開催しました。会場いっぱいの聴衆を前に、東京医科大学医学教育分野学部 教授 三苫 博先生、順天堂大学医学部附属静岡病院 脳神経内科教授 大熊泰之先生を迎えて行われました。

今回の講演では、三苫教授からは認知症と歩行に関して講演が行われました。歩行運動の指令が脳によって形成され、脳が歩行を調節している仕組みや歩きにくくなってきた場合、脳に障害が潜んでいることの説明がありました。次に、認知症ではどのような歩行の変化が起きるのか解説があり、まず歩行能力が低下しバランスを崩しやすくなる。その後、力が低下し足関節の動きが小さくなり、つまづきやすくなる。いずれも転倒の恐れが大きくなる変化です。認知症の症状の初期においては、この歩行能力の低下を受け入れて、ゆっくり静かに注意深く歩くのですが、症状が進行すると歩行能力の低下を受け入れられなくなって健康時と同じように早く勢いよく歩くようになります。このことが転倒事故を起こしやすくする原因とのことでした。認知症の方の、このような変化を理解して、事故が起きないように見守ることが大切であり、私たちも加齢と向き合い、歩行機能を維持するための工夫をしていきましょうとのお話しでした。

次に、大熊教授からパーキンソン病と歩行について講演が行われました。パーキンソン病は人口10万人につき約150人で、高齢者では100人に1人、日本全体には約15~20万人と推測されます。また、パーキンソン病の四大症状である安静時振戦(手足が震える)、固縮(手足の筋肉がこわばる)、無動・寡動(動作がスローになる)、姿勢反射障害(バランスが悪くなる)について動画でわかりやすいご説明をされました。モハメドアリ、岡本太郎など有名人の中にもパーキンソン病の方が多くいることなどのお話しがありました。次に、歩行障害についてパーキンソン病の姿勢・歩行、すくみ足などの様子を動画で分かりやすくご説明されました。現在は良い薬も開発されているため、薬が効いている時は普通に歩けるが、薬が切れると歩行が困難になる様子についても紹介されました。

最後に、パーキンソン病の患者さんがなぜ転びやすいのか、また、転倒を予防するために目印を床につけるなど、住環境における大切なポイントなどのお話しがありました。

講演終了後の質疑応答では、疾病に関する熱心な質問があるなど時間一杯まで途切れることがなく、とても充実した講演会となりました。

今年度東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後5回の開催を予定しています。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。

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